第3回で解説した直線区間での編成写真だが、その基本について、もう少し細かく見ていこう。電化区間を撮影する場合に最大の課題となるのが、ポールの処理だ。比較的ポールをよけやすい「複線・右向き」の場合を例に、真島満秀写真事務所の猪井貴志さんに、妥協のない基本の極意を伺う。

複線、右向きがポールをよけやすい理由

近鉄の団体用臨時列車「15200系あおぞら2」(2は正式にはローマ数字)。めったにお目にかかれないレアな車両だ

日本の鉄道は基本的に左側通行。列車の先頭部が右向きになる構図をとれば、奥の線路を列車が走ることになり、ポールと列車との間に線路1本分の間ができる。「ポールと線路の間の距離があった方がポールをよけやすいんだよ」と猪井さん。理想的な立ち位置の概念は下のイラストを参照してほしい。しかし、複線、右向きであっても、上下線に段差があったり、上下線の間に障害物があったりする場合もあるので、必ず現地をロケハンして撮影地を選定しよう。また、ポールをよけようと夢中になりすぎると、線路内へ立ち入ってしまう危険がある。くれぐれも注意してほしい。

構図決定には、列車の姿を想像せよ!

場所が決まれば、レンズの選択だ。「ポールをよけるためには、広角は不向きだね。50mmから135mmくらいが適したレンズだね」。上の写真の場合は70mmのレンズを使用したとのこと(焦点距離はすべて35mm判フイルムカメラの場合)。

そして、気になるのが手前の線路。どのように逃がしたらいいのだろうか。この質問に、猪井さんの表情が厳しくなった。「線路の逃がし方じゃなく、車両がきれいに見える構図を考えるんだよ。線路の上にどう列車が乗るのかはある程度決まっているから、想像しやすいよね。来る列車の長さ、フォルムを想像しながら、どう切り取ったら列車がいちばんかっこいいのか、ってね。編成写真は、想像ゲームなんだよ」。手前の線路をガイドに構図を決めるのは、邪道ということだ。なんという厳しさ。

構図を決め、ピントを固定したら、最後に露出を決める。「鉄道写真は速いシャッタースピードが必要だけど、絞りを開放にすればいいってものじゃない。ある程度"絞り"を絞った方が美しい写真になるんだ。シャッタースピードを決めたら、日光を見てできるだけ"絞り"を絞るね。あとは、列車が見えたら色が白いか、黒いかによって、絞り値を1/3ずつ微調整することもあるよ。列車の形と色をしっかり見せることが、編成写真の目的なんだからね」。

そのような絞りの微調整は、中~上級者用の一眼レフカメラでないと無理なこと。しかし、もはや「そこをなんとか、初心者向きに……」などと質問できる雰囲気ではなくなってきた。それなりの機材を用意し、真剣に挑戦する者だけが撮れるのが編成写真なのだ。鉄道写真を愛する筆者としては、妥協なく取材し、学んでいきたい。次回の「左向き」に、厳しい基本はまだまだ続く。