日ごろから服用している薬が思わぬ危険を招く可能性も

日常、「口」から服用している薬などで、じんましんやポツポツとした赤い斑点、同じ場所に繰り返しあらわれる赤いシミなどの症状が出たことがある方はいませんか。

症状が軽いからといって放っておくと、重症化して日常生活に大きな影響が出てしまうことがあるだけでなく、場合によっては命に関わります。そこで今回は、いつも「口」から服用している薬に潜む危険性についてお話しましょう。

命を奪うアナフィラキシーショックに注意

アナフィラキシーショックという言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。アナフィラキシーショックは即時型アレルギーの一つで、ある特定のたんぱく質(抗原)に対して免疫の準備ができ、次にそのたんぱく質(抗原)が体に入ったとき、体のあちこちに急激な症状が出る過敏反応です。

短期間にハチに2回刺されると危ないのは、アナフィラキシーが起こりやすいからです。夏から秋にかけて攻撃的になるアシナガバチやスズメバチに刺され、毎年20人前後が亡くなられていますが、その多くがアナフィラキシーショックによるものです(※1)

アナフィラキシーショックは血圧が急に下がるので、顔が真っ青になり、意識が遠くなります。重症の場合はのどが腫れて息苦しくなり、最悪の場合は死に至ります。心臓が止まるまで約5~30分との報告もあります(※1)

「そんな極端な話なんて自分には関係ない」と思われますよね。実はハチだけではなく、抗菌薬や痛み止めなどの薬、食べ物などのように、身の回りにアナフィラキシーの原因が潜んでいるとしたらどうでしょうか。恐怖を覚える方もいらっしゃると思います。

重症な薬物アレルギーとは

薬で怖いのは、即時型アレルギーのアナフィラキシーだけではありません。遅延型アレルギーの例を紹介しましょう。ある男性がむし歯を放置したため、「口」や顔の周りにまで感染が広がってしまい、入院になりました。抗菌薬の治療をしたところ、突然、全身に赤いポツポツとした薬疹(やくしん)が出てきました。

薬疹は、あやしい薬を中止することが一番重要です。症状によっては、専門の皮膚科で抗アレルギー薬やステロイド薬などを用いた対応が必要になります(※2,3)

2週間以上前から飲み続けており、かつ直前に投与された薬を疑うので、今回の男性は「口」から服用した薬だけでなく点滴などのすべての薬を止めたところ、徐々に症状は軽くなっていきました。

きわめて稀ですが、高熱とともに「口」や目などの粘膜や全身に薬疹があらわれるスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome: SJS)や中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis: TEN)と呼ばれる重篤な症状は、失明などの後遺症や亡くなることすらあるので、とにかく早期に専門の医療機関を受診することが大事です(※2)

薬の数と有害事象の数は比例する

薬物アレルギーではないですが、多剤服用(ポリファーマシー)にも注意を払わなければなりません。多剤服用は「5~6種類以上を服用している方」を指し(※4)。国内だけでなく海外でも65歳以上の約半数は多剤服用(ポリファーマシー)の状態にあると言われています。

多剤服用(ポリファーマシー)の問題点は、あらゆる有害事象が増加することです。例えば、4種類以上の薬は、せん妄(急におかしなことを言ったり、幻覚が見えたりすること)を引きおこす確率を高めます。また、5種類以上の薬は、転倒の発生率を高めることがわかっています(※4)。そうなってくると、多剤服用(ポリファーマシー)は、個人まかせにできる問題ではなく、家族や社会で取り組むべき問題になってきます。

「口」は病気の入り口にもなりえる

何か症状が出たら、たとえ症状が軽くても必ず担当の医師や歯科医師、薬剤師に伝えましょう。特に薬剤師の先生はいろいろと相談にのってくれます。私も飲み合わせや用法などのアドバイスをしてもらうことがあります。

治療に必要な薬ですら、薬物アレルギーやいろいろな有害事象を引き起こす可能性があります。例えば、口内炎にステロイド軟膏をまんぜんと塗り続けると、「口」の中のカビが増え、カンジダ症になる方もいます。

しかし、数多くの薬は必要があって処方されているので、ただ単にやめればいい、というわけでは決してありません。さまざまな情報を医療従事者だけでなく、患者さんやご家族と共有して、一緒に考えることが大切です。向き合い方次第で「口」は病気の入り口にもなりえます。だからこそ、ちょっと意識を変えると防ぐことができる可能性はぐんと高まります。まずはどんな薬を「口」から体に入れているのか、把握することから始めてみましょう。

注釈

※1 参考: アナフィラキシーガイドライン日本アレルギー学会

※2 参考: 薬疹(重症)日本アレルギー学会

※3 参考:「あたらしい皮膚科学 第2版」10章 薬疹 清水 宏(著) 中山書店

※4 参考: 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015日本老年医学会

※画像と本文は関係ありません


著者: 古舘健(フルダテ・ケン)

健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ100レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。