フェズから日帰り、小さな町・シャウエンへ
フェズのメディナを楽しんだ後は、フェズからバスでシャウエンという小さな町に日帰りで訪れることにした。シャウエンはフェズの北、地中海近くのリフ山脈の麓(ふもと)にあり、こちらも新市街と旧市街(メディナ)に分かれている。見どころであるメディナも大都市に比べて静かで、白い壁に青の窓というコントラストが可愛いと、ネット上のモロッココミュニティ騒がれていたので、何としても訪ねてみたいと思っていたのだ。
メルヘンな町でのんびり散歩
到着したバス停からメディナの入口までの道は、商店街や露店がたくさんあり、庶民の市場といったところか、人もあふれて活気があった。一方、メディナに入ると、人混みもなく静かで落ち着いていた。こちらは観光客向けの町のようだ。中心となる広場には、いまも残るカスバやモスクがそびえ立つ傍らで、欧風のレストランやカフェが集まり、ヨーロッパの街の一角を思わせる。ここからは低い山がすぐ間近に見え、その斜面に建っているかわいらしい家々が見渡せる。その眺めがなんとも清々しく、おとぎの話の世界を醸し出していた。
山の頂上に向かって続いている階段を上っていくと、民家の間にポツンポツンと商店が点在していた。白い壁に青いひさしや扉が、絵に描いたようにメルヘンチックで可愛らしい。よく見ると、扉の縁をタイルで装飾をしていたり、階段に設置されている手すりにもちょっとしたデザインが加えられていて、シャウエンの人々の美意識を感じずにはいられない。そう言えば、ここで見かける子どもたちも、着ている服やカバンなどがどことなくヨーロッパふうでオシャレな雰囲気だ。スペインとの国境に近く影響を強く受けているからかもしれない。
それにしても階段は急な上りで、左右の高さが不揃いなため、バランスを崩さないよう足を進めるのがむずかしい。数段上るとすぐ息が切れる。山間だから酸素が薄いのかもしれない。踊り場で立ち止まり振り返ると、両手に荷物を抱え、階段下で休んでいるオバサンと目が合った。「疲れちゃって休まないと上れないわね」という意味合いのジェスチャーをお互いにして笑い合った。どうやら地元の人にとってもこの坂はキツいらしい。
ふと周りを見渡すと、もう店はなく住居だけのようだ。いちばん上まで上ると眺めのいいスポットがあるらしいが、この日は生憎の雨だったため中断することにした。雨に煙ったシャウエンはより幻想的に浮き上がっていて、いつまでもこの、町並みを眺めていたいという気持ちにさせる。おまけに、どの路地を歩いていてもすーっとさわやかな風が吹いており、自然と癒される。ここシャウエンは、賑やかな観光都市から逃れてのんびり過ごすには、うってつけの避暑地なのだ。なぜ多くの旅人がこの小さな町に訪れるのか、ようやくわかった気がした。次回は、モロッコの醍醐味の1つ、サハラ砂漠についてお届けする。
プチ情報:近寄ってくる人のあしらい方
モロッコでは、駅周辺や町中だけでなくバスや列車の中でも「こんにちは」「私には日本人の友達がいます」と言って声をかけてくる男性が耐えない。それらは物売りかガイドかただの好奇心かがほとんどで、存在を無視しているとたいていは収まる。列車や店の中など閉じ込められた場所では、時間をフルに使い巧みな話術で仲良くなろうとするオジサンもいる。そんな時は世間話かガイドの斡旋かよく判断して、後者ならキッパリ断ろう。日が経つにつれあしらい方も身につくはず。やがて、オジサンたちのユーモアあふれる話につき合えるほどになれば、モロッコの旅も一層楽しめるに違いない。