旅本を読みあさり、コラムに感心し、ウェブのコミュニティ等を徘徊してのぞんでも、想像がことごとく裏切られる……そういった旅に魅せられてしまっている。そんな中、アフリカでありながらヨーロッパの雰囲気を合わせ持つモロッコを訪れてみたいと思い立った。もちろん想定外の魅力を探しに、である。

モロッコはアフリカ大陸の北西に位置し、西は大西洋、東はアルジェリア、北はジブラルタル海峡を挟んでスペインと隣接している。ヨーロッパとアフリカの文化がミックスされたバラエティに富んだ国と言えるだろう。気候は四季があるものの(地域によって差はあるが)、年間を通して昼間は温暖で朝晩は冷える。治安に関しては心配ない、とは言いがたく、都市部では注意が必要だ。

モロッコほぼ一周の旅 - カサブランカから古都・フェズへ

モロッコ地図。今回はカサブランカからフェズへ向かう

モロッコを知るために、できるだけ多くの町を訪れたい。そして、14日間の旅という限りある時間内で無理なくと考えて、カサブランカから主要都市を一周することにした。一周するにはモロッコの中央を貫くアトラス山脈を越えなければならない。聞くところによると、この山越えがコワいらしい。なにがコワいのかというと、バスが崖っぷちをものすごいスピードで駆け抜けるのだとか。カサブランカからのコースは2通り。マラケシュを経由し、反時計回りで山越えするルートとフェズ経由の時計回りだ。反時計回りコースは、ダイナミックな峡谷を通る崖っぷちコース。一方、フェズ経由の時計回りだとアトラスの低い部分を越えるため、なだらかな落ち着いたコースになるという。小心者の私は迷わず、なだらかコースを選んだ。

スタート地点となるカサブランカに降り立つと、思った以上に大都市だった。高層ビルは少ないもののアパートや商業ビルがひしめきあっている。クラクションを響かせて先を急ぐ車、足早に歩く仕事帰りの人。アジアの商業都市とそう変わりないモロッコの玄関口だが、ついに、アフリカ大陸に足を踏み入れたのだと、胸が高鳴った。ふくれた期待を抱えて列車で4時間、フェズへと向かう。

カサブランカからフェズへ向かう列車からの風景。町と町の間に広がる牧草地が情緒的

コンパートメントになった座席で、窓からの風景にしばし見とれる。土カベで造られた手作り感たっぷりの古いアパートやコンクリートでできた真新しいアパートが連なる町並みが途切れると、いちめん、輝きを放つ平原が続いている。青々とした牧草地に羊の群れ、オリーブ畑、緑色の地平線。草原に立つ家に色鮮やかな洗濯物……。ヨーロッパの田園風景を見ているようだった。ここで、"乾いた大地"というモロッコへの(勝手な)イメージが崩れた。こうした町から町への移動が、この国の断片を色濃く見せてくれるのだと実感。求めていた"想定外"が目の前に広がった瞬間だった。

列車から見た途中駅の様子。女性は民族衣装をまとった人が多い

世界遺産のメディナ(旧市街)・フェズ・エル・パリを歩く

フェズは、時間の流れ方がカサブランカと違った。観光地で外国人に慣れているせいか、こちらに向ける人々の視線が穏やかで、歩き方もゆったりしているのだ。

フェズの新市街の町並み。鳥のさえずりが賑やかで散歩が楽しい

モロッコの多くの町と同じように、フェズにも近代的な新市街と旧市街(メディナ)がある。新市街は道路も舗装され、国王の名がつくメインストリートには噴水があり、花もきれいに植えられていた。新市街からタクシーで10分ほど行くと、メディナの入口付近に到着。ユダヤ人街を通り過ぎメディナの入口の1つ、ブー・ジュルード門からいよいよ旧市街へ。9世紀に築かれたフェズ・エル・パリと呼ばれるメディナだ。メディナは1981年に文化遺産として世界遺産登録されていて、3,000もの路地があり、"世界一複雑な迷路の町"とも言われている。

青いタイルが美しいブー・ジュルード門の外側。内側は緑色のタイルになっている

門をくぐるとすぐ、細い路地が無数に広がっている。香辛料や野菜を積んだリヤカー、重そうな荷を積まれたロバを引くオジサンたちの活気に圧倒されながら、道を進む。まずは、かつて神学校だった建物へ。中に入ると、賑々しい外の喧噪から閉ざされ、荘厳な空気が漂っていた。太陽がモチーフの紋様が美しい扉や、いまも現役の礼拝堂をしばらく見学し、歴史の重みを心に刻んだ。

ロバが重そうに荷を引く姿が、かわいらしくもあり、気の毒でもある

モロッコ料理に欠かせない人参やいんげんが色鮮やかに道端に並ぶ

寄宿舎も兼ねていた旧神学校跡。壁や扉に施された装飾が細かくて見事

おみやげを物色しながら、"迷路"のさらに奥へ。途中、店や道端で工芸品の職人技を鑑賞。精巧な技からそうでないものまでじっくりと、あるいはちらりと通りすがりに見る。これがモロッコらしさなのかも知れない。フェズは博物館やモスクといった見どころも多いが、何より町の人々を眺めるのが一番のオススメ。というのも、ここは世界遺産であるにもかかわらず、人々が営んできた生活臭さがあるので、彼らの暮らしを垣間みることができる貴重なスポットだからだ。私たち旅人が、彼らとともに暮らしているかのような錯覚に陥るほど、素晴らしい体験ができるだろう。次回はフェズから日帰りで行ける小さな町・シャウエンをお届けする。

白っぽい町並みの中で目立つなめし革染色の職人街。ここからの一望は圧巻!

プチ情報:モロッコ旅行のトイレ事情

モロッコ旅行のプチ情報でいきなりトイレの話もなんだが、最重要項目なものなので(笑)、説明をしておきたい。モロッコのトイレは和式に似たスタイルで、水洗ではなく現地の人はバケツに水をくんで左手で洗う。つまり、トイレットペーパーがない。トイレットペーパーは現地調達もできるが割高で質が悪い。1週間の旅行で1ロールあれば充分なので、日本から持参しよう。使用後はバケツの水で何度か流せば流せるだろう。