皆さんは「お立ち台」というとどのような場所を想像しますか。鉄ちゃんの間で「お立ち台」とは、観光ポスターや時刻表の表紙などになった写真が撮れる有名撮影地のことを意味します。お立ち台には、狭いポイントにもかかわらず時には200人、300人もの鉄ちゃんが集まります。このような通勤列車並みともいえるお立ち台での立ち位置確保のコツや、お立ち台によく現われる"追っかけ"の鉄ちゃんによる迷惑行為について今回は解説していきます。

前回前々回と続けてSLマイコミ号と御目出塔駅を絡めた写真を撮り損ねてしまったテツヤくん。気分転換に立ち寄った書店の写真技術書コーナーで、『初心者もプロ並みのアングル!! "あの"鉄道撮影地、大公開』という本を見つけました。ぺらぺらとページをめくっていくと、なんと「御目出塔駅大俯瞰」なる場所が紹介されていました。テツヤくんがずっと撮りたいと思っていた駅名「おめでとう」の文字とSLマイコミ号を一緒に撮影できるポイントがあったのです。「こんな便利な本があったのか」と早速本を購入したテツヤくんは次の週末、御目出塔駅大俯瞰に向かいました(地名、書名、列車名などの設定は架空です)。

撮影当日。渋滞と駐車場探しで、撮影ポイントである橋に着いたのはSLマイコミ号通過の1時間前。そこには、見たところ200人以上の鉄ちゃんがいました。第3回で紹介した「場所取りは先着順、人の前には入らない」の掟を守るとすると、もう立ち位置はありません。しかし、11月初めの連休を最後に冬期運休に入るSLマイコミ号の撮影チャンスはあとわずか。ここであきらめるわけにはいきません。意を決して小さな隙間に入ったところ、怖そうな鉄ちゃんの肩に触れてしまいました。慌てて謝るテツヤくん。しかし、意外にも「兄ちゃん写真撮るの?そこだったらあいてるから入っていいよ」と苦笑するだけで終わりました。周りの鉄ちゃんたちもその様子を見て、苦笑いといった感じ。「鉄ちゃんって意外にフレンドリーなんだ」と肩の力が抜けたテツヤくんでした。

お立ち台のような混雑した場所で、もし入り込めそうな小さな隙間を見つけたら、無言で強引に入るのは避けたほうがいいでしょう。まずは気軽に鉄道の話をしてコミュニケーションをもってみるのはいかがでしょうか。話題は、これから撮ろうとしている列車の話が最適です。間違いなく共通の話題ですからね。少しうちとけた後の方が、いきなりお願いするよりずっと入れてもらいやすくなります。高度なコミュニケーション能力でいい立ち位置を確保するのも、実力のうちなのです。

もう少しで列車通過時刻ですが、テツヤくんの隣に置いてある三脚は持ち主がいないまま。「おかしいなぁ」と思ったその時、数台の車が慌しい様子で路肩に停車し、カメラを持った人が次々とやってくるではありませんか。これは、「追っかけ」と呼ばれる撮影をしている人たちです。追っかけとは、車で列車の先回りをし続けて、短時間のうちに数カ所で撮影する手法です。"車道が鉄道を大幅にショートカットしている区間を利用する"や"駅でイベントをこなしながらゆっくり進む企画列車を追う"というような節度のある追っかけならそれほど迷惑を掛けることもないでしょう。しかし、鉄道と並行する道を無理な追い越しをしながら猛スピードで運転し、路上駐車をして撮影するような"無理な追っかけ"は非常に危険で、沿線の社会問題にもなっています。衝突事故も頻繁に発生しています。

彼らが三脚にカメラを装着していると、今度はパトカーのサイレン音と、車の移動を求めるアナウンスが聞こえてきました。慌てて車に戻る無理な追っかけの鉄ちゃんたち。その時、SLマイコミ号が来てしまいました……。こんな目に遭わないためにも、時間に余裕を持って行動し、違法駐車は絶対にやめましょう。中には無理な追っかけを勇気ある行動と勘違いして誇らしく語る鉄ちゃんもいますが、これから鉄道写真を始める皆さんには、無理な追っかけの鉄ちゃんたちを助長しないよう、そういった行為を真似したり、賞賛したりすることはやめていただきたいと思います。

本と同じ構図で撮影できたテツヤくんでしたが、ちょっと旧式のコンパクトデジカメではプロ並みとはいきませんでした。「お立ち台に行けば必ずガイド本のような写真が撮れる! 」というわけではありませんが、よい勉強になるので行ってみて損はありませんよ。

ミニ情報
見るだけでも楽しい撮影地ガイド
月刊誌『カメラマン』(モーターマガジン社刊)のムックで、青春18きっぷのポスター写真などを手がける真島満秀写真事務所が撮影、監修した『四季の鉄道風景撮影ガイド』は、美しい写真満載。見るだけも楽しめますが、簡単な地図がついているのでお出かけの際にも役立ちます。また、『カメラマンWeb』は、デジタルカメラ関連の新製品の情報や、よく寄せられる疑問をまとめたデータベースなど、初心者も知りたい情報が満載。ぜひチェックしてもらいたいサイトです。撮影地は周辺の工事や木の伐採などによって環境が激変することもあるので、路線名や駅名、地名といったキーワードでWeb検索するなどして、最新の情報を確認してから出かけましょう。