【連載】
日本で最初に誕生した日本語ワープロ(ワードプロセッサ)は、1978年に東芝が送り出した「JW-10」だそうです。筆者も実機を目にしたことはありませんが、価格は当時の大卒初任給が10万5,500円の時代に、630万円と一個人が手が届くものではありませんでした。そこから約七年の月日が経て登場したのが、「一太郎」の前身「jX-WORD太郎」です。
話は前後しますが、「一太郎」の成り立ちは少々複雑。jx-WORD太郎がリリースされる二年前の1983年に、NECが日本版Alto(アルト)を目指して開発したコンピューター「PC-100」用にバンドルする日本語ワープロソフトとして「JS-WORD」を開発。翌年にはIBMの家庭向けコンピューター「IBM JX」シリーズ向けの「jX-WORD」、そしてNECの「PC-9801」シリーズ向けとして前述のjX-Word太郎をリリースし、同年の1985年にようやく現在のラインナップに数えられる「一太郎」シリーズが生まれたのです。
そこから長い月日を経てバージョンアップを重ねた一太郎ですが、必ずしも盤石の構えで歩んできたわけではありません。数多くの日本語ワープロソフトとシェアを争って来ましたが、現在ではその地位をMicrosoft製オフィススイートに譲り渡しているのが現状です。しかし、国産の日本語ワープロソフトとして30年近い歴史を持つノウハウは、日本語文書を作成する上で欠かせないものばかり。
例えば罫線を多用する書類が多い国内では、通常の文字を入力する感覚で罫線を引ける機能は有益でしょう。また、日本語入力メソッドとして定評のあるATOKとの連動性の高さは何物にも代え難いものがあります。バージョン22となる「一太郎2012 承(以下、一太郎2012)」では、数多くの機能を備えていますが、注目すべきは電子書籍フォーマット「EPUB 3.0」をサポートしている点(図01)。
現在多くの注目を集めている電子書籍は、さまざまなファイル形式が用いられてきました。しかし、規格の乱立がユーザーの利益につながらないのは過去の例を見ても明らか。そこで生まれたのが、米国電子書籍標準化団体の一つであるIDPF(国際電子出版フォーラム)が提唱する「EPUB(Electronic PUBlication)」です。
HTMLなどと同じくEPUBは、仕様が公開されているため誰でも無償で使用できることから、ここ数年はシェアを拡大してきました。最近ではiOSやAndroidを搭載するタブレット型コンピューター上のソフトウェアでサポートされ、Mozilla FirefoxやGoogle Chromeでも表示させることが可能です(Mozilla Firefoxはアドオンが必要)。表示するデバイスの画面サイズに応じて変化する可変レイアウトを採用しているため、使用するデバイスが制限されない点も電子書籍に適した形式と言えるでしょう(図02~03)。
もう少し、EPUBに関して説明しましょう。EPUBの仕様はWebブラウザーで使用されるHTMLやCSS(Cascading Style Sheets)をベースに開発されているため、CSS3によるアニメーションやVideoタグによる動画を挿入することも可能です。また、EPUBリーダーがJavaScriptをサポートしている場合は、動的な電子コンテンツを実現することも可能でしょう(図04)。
図04をご覧になると分かるようにEPUBは、XHTML形式のドキュメントファイルや画像ファイル、設定ファイルなどで構成されていますが、実際に我々が目にするEPUBファイルはワンファイル。これは複数のファイルをZIP形式で圧縮し、一つのファイルに見せているに過ぎません。このEPUBファイルをデバイスに渡すことでEPUBリーダーは内部的に展開し、電子書籍を表示させているのです。
このように電子書籍の未来を明るく照らすEPUBですが、その一方で我々が避けて通れない問題があります。それが日本語表示。例えば文庫本で小説を読む場合、文字は縦組みでレイアウトされているのが普通です。また、難しい漢字をわかりやすくするためや著者が意図的に異なる読み方をさせるために振るルビの存在は、初期のEPUBでは考慮されていませんでした。
これらの問題はEPUB 2.0がベースにしていたXHTML 1.1やCSS 2が原因でしたが、2011年に公開されたEPUB 3.0はベースとなる規格をHTML 5とCSS 3に変更することで日本語の縦組み表示や、縦組み文書のなかで文字を横組みにする縦中横、文字を強調する圏点(けんてん)をCSS 3を拡張する形式でサポート。そのため完全ではありませんが、ひとまず日本語を用いる電子書籍環境が整ったことになります。
その一方でEPUB 3.0を作成する環境は、まだまだ多くありません。もちろん書籍や雑誌などを電子的に作成するプロフェッショナル向けDTPソフトウェアでは、サポートされつつあります。しかし、あくまでも個人が気軽に電子書籍にチャレンジするという意味では、一太郎2012によるEPUB 3.0のサポートが、大きなアドバンテージとなるのです。
目の前にあるコンピューターから情報を"得る"という受け身の状態から、"創る・生み出す"といった能動的な状態に移行したい。何らかの成果物を作り出したい、と考える方は是非、当ハウツー記事を参考に一太郎2012に電子書籍作成にチャレンジしてください。次回は一太郎2012を使用し、電子書籍の具体的な作成手順をご紹介します。
阿久津良和(Cactus)
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