FacebookやTwitterなど、SNSの浸透により可視化されたものがあります。それは「結婚している人」は、忙しい、ということです。結婚しただけで、そんなに忙しくなるのか? 共働き夫婦でも、どちらかが専業で家事をする夫婦でも、ひとり暮らしとそんなに忙しさが変わるのだろうか? と、理論上はそう思えてきます。

が、その数秒後に我が家の状態に気づき、唖然とするのです。「とてもじゃないけど、人に見せられない」部屋、そして自分の状態……。これを「せめて結婚相手には見せて良い程度」に片づけ、きれいにしておくのは、まずそこそこ忙しいんじゃないかと思います。

結婚している人は忙しい?

その他にも、結婚している人は忙しい、と感じることがあります。それは「コミュニケーションを取る相手がいる」ということです。当たり前ですが、結婚には相手がいます。そして、たとえ休日が同じ曜日であっても、相手と過ごす時間は意識してひねり出さないとどこからも出てきません。

それぞれが勝手に「私、この日友達と会う約束しちゃった」「俺、この日出社になっちゃった」と自分の都合だけで動いていたら、一緒に住んでいても「一緒に過ごす」ことはなかなか難しくなってきます。

二人だけでもそうなのですから、ましてや育児中の人の時間の配分たるや……。普通に一家で公園に遊びに行っている写真などを見るだけで「時間配分が上手なんだなぁ」「夫婦で協力しあえているんだなぁ」と感心してしまいます。

それに比べ、独身である自分はどうでしょう。だらしなくヒマを持て余しているはずなのに、仕事や家事のスケジューリングすらバシッとこなすこともできず、不規則に過ごす毎日……。ときに独り身の虚しさに耐えかねて走る先はライブや劇場といった娯楽施設であり、決して「自分磨き」ではありません。子供のいる人が時間を上手に作ってネイルサロンに行ったり、友達と会ったりしているのに、なぜかもっと時間がふんだんにあるはずの私には、まったく余裕がないように感じます。

要するに、自分のことで手一杯なのでしょう。他人のために自分の時間や手間を使ったことがなく、それをなんとかしてやっていこう、とも考えてない。気付けば実家への帰省もしばらくしていません。もちろん、法事にも参加していない。今、思い出そうとしてみましたが、正直言って実家のお墓の場所なんて見当もつきませんでした。なんということでしょう。自分の中には「家族がやるべき最低限のこと」の知識すらないのです。その最低限の手間すら避けてきたからでしょう。

人は変われるもの、と言いますが、こんな風に好き勝手してきた自分が、結婚した瞬間、即座に変われるとも思えません。人を大事にし、優先させるために、いったい独身の私は、どのような心構えをし、どのような生活を心がければ良いのでしょうか。そう考えると、相手もいないのに、と虚しくもなってきますし、でも、このままではひとりの気ままな生活に慣れすぎてしまい、自分を変えることすらできなくなりそうで、怖いという気持ちもあるのです。

「家族とはチームである」とよく言われますが、チームプレイをする習慣がなさすぎて、いったいどうしていいのかわからない……。それが私の現状です。チームメイトもいないのに、何を自主練すればいいのでしょうか。

「必ずいつかはチームが組める」とわかっているなら、その練習はつらくないのですが、そうではないので、その練習は私にとって、かなわないかもしれない夢を追いかけているようで、つらいのです。そんなことをしているくらいなら、やればやった分だけ返ってくる仕事をしたほうがいい、と思えます。この考え方自体が、たぶん結婚には向いていないんだろうなと思うこの頃です。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩