ピンク系の表紙がまぶしい、書店の「女性エッセイ」コーナーにズラリと並ぶモテ本や婚活本の数々、みなさんは手にとったことがおありでしょうか? 私はあります。正確に言うと、婚活本は買ったことがありませんが、モテ本はあります。

こう言うとたいていの人が「えー、あんなの信じてるの?」という反応を返してきますが、声を大にして言いたいです。「信じる、信じないじゃない! テンションを上げたいだけなの!」と。モテ本を読むことで「こんなことでモテるんだったら、私でもなんとかなるかも」「こういう局面でどうしたらいいのかいつも悩んでたけど、こんな返しがあったんだ」と、読んだだけで一歩前進したかのような気分になるのが、こういう本のいいところです。

その一方で、婚活本にはなかなか手が伸びないのはなぜなのでしょう。今もっとも必要としているのは婚活本のはずなのに……。

自分を捨てるか、結婚を捨てるか

モテ本にもいろいろな流派があるように、婚活本もさまざまです。仕事で読んだことはありますが、「今、女性が望んでいる『普通の結婚相手』の条件がどれだけ高望みであるか」を突きつけてくるものもあれば、「どのようにセルフブランディングすれば『結婚対象』として見てもらえるようになるのか」という自己分析を促してくるものもあり、かなり有用だなと感じるものもあります。

私は結婚相手に「正社員で、年収五百万以上」とかいう条件を求めているわけではありません。なので「あなたの求めている『普通の結婚相手』は、もはや希少で『普通』ではありません」という現実を突きつけられても、ビクともしません。

しかし、話が「『結婚対象』として見られるためのセルフブランディング」になると……。もう、バッタリ倒れそうになります。まず「ライター」とかいう仕事をしている時点で、かなり「結婚相手」として見てもらうのは難しいです。実際には地味きわまりない生活をしていても、出版業界の派手で不安定なイメージがつきまとうからです。

ルックスについてのこともそうです。「ネイルアートは控えめに」などと言われても、「ネイル地味にするぐらいで結婚できるんだったらいくらでもするけどさ、もう36年も生きてきたんだから、爪ぐらい好きにしても良くない!?」と、真っ赤な爪でプカーッとたばこのひとつもふかしてやさぐれたくなります。

特に私の世代は、個性重視の教育をされてきた世代です。個性的であることが正しいと信じ、自分らしい生き方を目指してがんばってきたのに、いまさら「個性を隠して、とっつきやすい『お嫁さんタイプ』になれ」と言われると、なんだか裏切られたような、自分の人生そのものまで否定されているような気分になってきて、生きるテンションそのものがガタ落ちになってしまうのです。

さらに、この考えは本当に捨てないとまずいのかもしれませんが、結婚するからには「誰でもいいから嫁に適した女」を選ぶ人よりも、「きみだからこそ結婚したい」と言ってくれる人がいい……という考えが、私の中にはあります。そう思うと、なかなか「自分を捨てて、嫁タイプになる」ことができないのですよね。

ほんのちょっと変えるだけで「嫁タイプ」になれるのなら、と前向きな気持ちで読めるのであれば、婚活本は大きな手助けになってくれると思うのですが、それを買うまでの心の抵抗がまだ克服しきれずにいます。自分でも「煮え切らない独身」だなぁ……と思います。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩