ヒューマンリソーシズ 人材開発 兼 ダイバーシティ&インクルージョン シニアマネージャー 山本真一郎さんに話を聞いた

他の企業に先駆けて、フレキシブルな働き方を追求し続けているP&G。同社では、2012年に「フレックス・アット・ワーク」(Flex at work)というコンセプトを打ち出し、時間や場所を柔軟に調整できる勤務制度を導入している。「超フレックス」ともいえる働き方の仕組みはどのように出来上がったのか。ヒューマンリソーシズ 人材開発 兼 ダイバーシティ&インクルージョン シニアマネージャー 山本真一郎さんに話を聞いた。

場所も時間も組み合わせ自由な働き方

P&Gでは2012年、勤務制度に関して「フレックス・アット・ワーク」(Flex at work)というコンセプトを掲げた。これはある特定の制度を指す言葉ではなく、さまざまな働き方を可能にする同社の理念だという。

「当社がフレックス・アット・ワークというコンセプトを導入したのは2012年ですが、その前から在宅勤務や時短勤務は認められており、比較的柔軟な働き方は可能でした。しかしさらに一段階進んだ柔軟性を追求したのが、フレックス・アット・ワークです」と山本さんは話す。

「フレックス・アット・ワーク」とは、具体的には以下の4つの制度を指す。対象は全社員だが、(1)~(3)は一部の工場従業員や美容部員など、シフト勤務や事務所での作業が物理的に必要な社員をのぞく。

(1)ロケーション・フリー・デー(Location Free Day)

業務に必要な環境とセキュリティーが確保されていれば自宅以外でも働けるという制度。いわば「在宅勤務」の進化形だ。例えば、神戸本社で働く単身赴任者が「自宅は東京なので、金曜日は東京オフィスで働く」といった使い方や「年末早めに帰省して実家で仕事をする」なんてこともOK。月に5日までなら誰でも利用できる。

(2)コンバインド・ワーク(Combined work)

あらかじめ合意した特定の曜日に会社と自宅の両方で働くことができる制度。その日は自宅とオフィスをあわせて1日の就労時間が7時間40分を満たせばよく、「家に帰って子どもを保育園へお迎えに行き、そのあと自宅で働く」といったことも可能。育児や介護などの理由があれば、週5日まで利用できる。

(3)フレックス・ワーク・アワー(Flex work hour)

いわゆるフレックスタイム。就業時間を月単位で管理でき、コアタイムを満たせば、就業開始や終了時間を柔軟に調整できる。特に理由がなくても使える。

(4)時短勤務

育児や介護などの理由があれば、所定の労働時間の60%まで労働時間を短縮できる。

ちなみに、これらの4つの制度は2012年のタイミングで一斉に始まったわけではない。(4)の「時短勤務制度」は1990年代後半に導入され、(3)の「フレックス・ワーク・アワー」は2000年にスタート。「ロケーション・フリー・デー」のベースとなった「在宅勤務」は2002年に導入された。一方、 (1)の「ロケーション・フリー・デー」と(2)の「コンバインド・ワーク」は2015年7月から開始。2012年の「フレックス・アット・ワーク」コンセプト導入後にスタートした新しい制度だ。

「それまで、時短や在宅勤務については、ニーズがあれば個人ごとにバラバラに対応してきました。それをひとつのコンセプトとして全社で展開することで、社員の意識を高めていこうと考えたのです」と山本さんは話す。

育児や介護で忙しい社員でもベストパフォーマンスを出せる仕組み

P&Gの神戸本社ビル

山本さんはきっぱりと「フレックス・アット・ワークの導入の理由は、社員の利便性向上というより、ビジネス戦略です」と語った。P&Gでは、1990年代から「ダイバーシティ&インクルージョン」(多様性の受容)を経営戦略のひとつに掲げてきた。

「性別や世代、人種が異なる多様な人材、価値観の違う人間が、最大限の力を発揮して働けるようにするというのが、人事施策の根底にあります。その一環として、働き方も多様にしていこうと考え、“フレックス・アット・ワーク”を導入したんです」。介護の問題を抱えている人や単身赴任の人など、さまざまなライフスタイルの人が最大限の力を発揮できるようにすることで、会社全体のパフォーマンス向上を目指しているのだ。

各制度の具体的な利用率は公表していないというが、「多くの社員が活用しており、好評だ」という。特に、ロケーション・フリー・デーは社員にもかなり好意的に受け止められ、「ほとんどの部署に利用者がいると思う」とのこと。コンバインド・ワークは、制度の利用に理由が必要なため、今は育児中の社員の利用が中心だという。

フレックス・アット・ワーク導入以降、同社の業績は伸長しているそうだ。「直接的な因果関係は明確ではないが、社員数が大幅に増えたわけでもないので、個々の社員の生産性が上がったといえるだろう」とのこと。ビジネス戦略としての勤務制度の導入は成功したといえそうだ。

後半では、離れて働く部下の管理・評価方法や、制度導入のカギともいえる評価制度・スケジュール管理術を紹介する。