2011年4月25日付けの日本経済新聞に中国の電池・自動車大手のBYDは今後3年間で100億元(約1260億円)を投じ、年50万台分の自動車用リチウムイオン電池の供給体制を構築する、という記事が掲載された。この中国のBYDとは一体何者か。実は、スペインのバルセロナで開かれたMobile World Congress(MWC)2011においてBYDが展示ブースを出していた。特にクルマや電池を展示する訳ではないが、商談目的のブースであり、携帯電話用の電池や携帯電話、部品などを展示していた。ここで説明員から話を聞いた。

設立15年間で2000倍の売り上げ

BYDは日経新聞に書かれたように電池・自動車メーカーであるが、なぜ大きくなったか。その歴史ストーリーは共産主義を今でも標榜する中国の企業とは思えない。同社は1995年、広東省深セン市(センの字は土偏に川)に設立された。当時は、ブームになりつつあった携帯電話のアセンブリ、すなわちEMS(契約ベースの製造請負企業)として事業を始めた。95年の売り上げはわずか2000万元(2億5200万円)だったが、2009年末ではほぼ400億元と2000倍に成長した。

BYDは携帯電話機のEMSアセンブリサービスを提供している内に、2年後の1997年には携帯電話向けのリチウムイオン電池を自社で作り始めた。2000年には米Motorolaへ、2002年にはフィンランドNokiaへ携帯電話用のリチウムイオン電池を納入できるほどの品質を確保できるようになった。この年には香港証券取引所に株式上場を果たした。BYDがバルセロナに参加したのは、携帯電話機市場がもともとのコアコンピタンスだったからである。

そして2008年には携帯電話のODM(original design manufacturer)としてアセンブリ製造だけではなく設計から受注できるようになり、この年初めてのODM設計製造による携帯電話機を市場へ出した。携帯電話の設計を手掛けるということは電池だけではなく、マイクロエレクトロニクス、液晶技術、精密加工技術、カメラモジュール技術、オプトエレクトロニクス技術など基本となる設計技術をすべて身につけていることになる。研究開発センターも自前で持ち、パワーエレクトロニクスも研究してきた。

自動車部門はアセンブリ屋ではなく部品生産も

その間の2003年にBYDは自動車産業に参入する。自動車生産では、エンジンから工作加工機、自動車エレクトロニクス、自動車装飾などを手掛け、もちろんアセンブリ生産も行い、最終的に消費者市場へ自動車を出荷する。2008年にはハイブリッドカーではなくむしろプラグインハイブリッドともいうべき、「デュアルモード電気自動車」を市場へ出した。2009年には大型バスも生産し始めた。2010年には深セン市内を走るタクシー用の電気自動車を供給し始めた。

図1 デュアルモードの電気自動車(プラグインハイブリッド)(出典:同社のパンフレット)

BYDはテクノロジーに注力し、モノづくり全体のサプライチェーンと、キーコンポーネンツをカバーする。キーコンポーネンツの中でも蓄電池の技術は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池、鉄電池(リン酸鉄系の材料を正極に用いたリチウムイオン電池)を手掛けており、特に鉄電池は自力で開発したとしている。

図2 自動車を自力生産するBYD(出典:同社のパンフレット)

BYDの自動車部門は今や、ファミリーセダンからMPV(multi purpose vehicle)車、SUV(sport utility vehicle)車、バス、電気自動車(EV)などを生産してきた。そのカギは車体のデザインから溶接、塗装、アセンブリ、部品製造、テストに至る自動車生産のすべてを手掛ける垂直統合システムだ。これによりコストを下げて競争力を増し、品質と生産効率を上げ、ブランド力を挙げてきたという。海外と競争するため品質とテストには非常に神経を使い、独自のテストコースを持っている。ここで市場へ出す前にさまざまな環境試験と共に走行試験、衝突実験なども行い安全性を確保するようになった。

図3 IT事業から始まり自動車、そして新エネルギーへ進むBYD(出典:同社のパンフレット)

そして、グリーンビジネスへ

BYDは矢継ぎ早に成長産業へ事業を広げ、電気自動車を足掛かりに新エネルギー分野へも進出するようになった。太陽光発電や蓄電池エネルギーステーション、LED照明にも乗り出してきた。いずれもトップダウン方式の垂直統合システムが特徴だ。この方式でR&Dセンターとも絡ませると、製品の開発期間は西洋諸国の1/3に短縮しているとBYD EuropeのWinnie Jia氏は誇らしげに語る。

独自開発の鉄電池をベースに3つのグリーン技術を推進する。「太陽光発電」、「蓄電池エネルギーステーション」、「電気自動車」だ。太陽電池に対しても多結晶シリコン(ploy-Si)セルを自力で開発し低コスト化を実現しているという。鉄電池を利用したエネルギーステーションはスマートグリッドに欠かせない。まずは風力発電と太陽光発電の出力安定化のためにエネルギーステーションを利用していく。さらに家庭内のエネルギーシステム用にも蓄電池エネルギーシステムを開発する。自力で開発した鉄電池は電気自動車にも使い、熱暴走を起こさないという特長を持つため、リチウムイオン電池ほどエネルギー密度は高くないものの、大電流・大電力を供給できる。

中国国内ではBYDはトップレベルのクルマメーカーに成長した。2015年には国内ナンバー1を目指し、2025年には世界一を目指すとしている。