無印良品を展開する良品計画では、"「いつも」の品で「もしも」の備え"として、普段使いできる品で災害に備えることを提唱している。今回は、担当者である企画デザイン室 高橋さんにお話を伺った。

大切なのはシミュレーション

――備えを置く場所について、気をつける点はありますか?

その方次第かなと思っています。暮らしにじゃまにならなくて、使うときに出せれば良いのではないかと。自分の動きをシミュレーションしていくと、カセットコンロを防災用にしまっておいて、普段使えるかというと……やっぱりコンロはキッチン周りにほしいです。家の中のどこにあるかを把握して、まわりの状況がわかってきたときに使えればいいと思うんですよね。

――普段使いを考えた置き方がいいんですね

前提としては、整理が行き届いているのがいいと思いますね。服にしても、普段着用と逃げるとき用と作らないのではないでしょうか。本当に危ないときは、もう上着だけはおって逃げると思います。周りの人に「さっと持ち出せるようのセットを教えてよ」と言われることもあるのですが、まずは状況を想像してから話さないと、と思いますね。

僕自身は、大きめのキャリーケースにいれた2つのコットンリュックに特殊なものを入れておいて、衣料品などはいつものところから持ち出せるようにしています。アウトドア派の方は、キャンプ道具などとまとめておくのもいいんじゃないかなと思います。

キャリーバーの高さを自由に調節できるストッパー付きハードキャリー

リュックサック・小

――そういうノウハウってわからないですね

やはり重要なのは、ゆっくり順序立てて考えることです。

――「無印良品の中の人にきいた! 防災用品●選」みたいな記事にしようと思っていたので耳に痛いです……

小中学校の授業でやったらいいと思うんですよね。日本にいたら、どうしても地震はなくならないので……。順序立てて考えないと、自分ごとにならないというか。じわじわ”必要なこと”だとわかるようにしていった方が良いと思いますね。日本の自然としてしょうがないことですし、総合的に防災をとらえると、学ぶことは多いんじゃないかなと思います。ふだんから考えて当たり前のことだよ、と伝わればいいですよね。

――ものものしいのより、いつも使っているものをまとめているだけの方が、気持ち的には持ちやすいですよね

どんどんツッコミを入れていったほうがいいですね。既存のセットって、内容物などが提案している側の都合が含まれる事が多いから。結局、家の中にセットを組むのは大変だから、みんななかなか実行しないんだ、というのが活動の中で思ったことですね。

――日常に組み込む形に変化していったんですね。認識がかわってきました

「与えられた情報でてっとりばやく」という問題ではない

ところで、自分の住んでいる家の避難所どこかわかりますか? 絶対に調べておいた方がいいですし、一度徒歩で行ってみると、相当安心だと思います。いざというときに、やっておけばよかったって絶対みんな思いますよ! 広域に指定されていて、避難所に着いても家族と会えないこともあるかもしれません。広さや混雑度でいえば場所によってはフェスみたいなものですから(笑)。避難所のこの木の下、とか決めておかないと、会えないのでは。

年に1回日を決めて、話し合うのもいいと思います。子供はどんどん成長していくし、逆に老いも変化のひとつです。テクノロジーも変化していくし、そのときの状況にあった対処の仕方をきちんと想定することが重要だと思います。「与えられた情報でてっとりばやく」という問題ではないとわかってもらえたら嬉しいですね。

――ちなみに、どうして企画デザイン室で防災について発信しているのですか?

与えられているミッションはものづくり、いわゆるプロダクトデザインですが、商品の魅力や使い方、お客様の手に届いたあとのコミュニケーションまで一緒にデザインしたいのです。「いつものもしも」については、もうライフワークみたいになっています(笑)。

学生や、主婦などの一般の方々と新しい防災用品をデザインしよう、というイベントをやったりもするのですが、そこでも「いったん順序立てて考える」ことを最初にお話しています。面白いアイディアに走るのではなく、まずは機能や用途をじっくり考えることからはじめようと。そうすると、ぼやっと仕様がみえてきます、その上での表現といいますか。

――本当に、日常として考えることが大切なんですね。ありがとうございました。