日本の新幹線と比較されることが多いフランスのTGV(Train Grand Vitesse)。フランス国内の各都市を結んでいるが、日本とは違い、行先に応じてパリ市内の出発駅も違うから要注意だ。市内の右岸に位置するパリ・リヨン駅(Gare de Lyon)駅からTGVで南下すれば、数時間でイタリア国境近くまで行ける。

リヨン駅を起点として南フランスに向かうTGV(写真はイメージ)

TGVに乗りたいなら、前もって予約が必要

日本から旅立ち、フランスをはじめヨーロッパ各国の鉄道を利用する場合、フランスレイルパスやユーレイルパスを利用する人が多い。所持していればフランス国内の鉄道に予約なしで自由気ままに乗れるのが、こうした鉄道パスのいいところ。だが、残念ながらTGVは予約なしでは乗車できない。レイルヨーロッパ公式サイトから日本語で予約することはできるが、旅先ではPC環境もままならないし、ホテルのPCからでは日本語入力も困難だ。最も無難な方法は、やはり駅の予約窓口で予約をすることだろう。

幸い、TGVはパリ市内のフランス国鉄(SNCF)の駅で予約できる。TGVの出発駅でなくても、駅の前売りカウンターなら予約可能だ。パリ市内だと北駅、東駅、サンラザール駅、モンパルナス駅、リヨン駅のほか、SNCFのオフィスもあるので、パスを持参し、窓口で予約をすれば、まず問題ないだろう。予約する際、鉄道パスを持参した上で、希望のクラス(1等・2等)、日時、TGVの出発時刻などをメモしておけば、スムーズに予約できるはず。ちなみに現在、TGVは日本と同様、全席禁煙になっている。

中には、「外国語で交渉するのは不安だ」という人もいるだろう。たとえばJCBカードを所持してパリに滞在するなら、平日の時間があるときにJCBラウンジへ立ち寄って対面で予約し、後で旅行代理店から受け取るという方法もある。多少手数料はかかるのだが、こちらのほうが安心という人もいるようだ。

準備万端、余裕を持っていざ出発!

フランス国鉄(SNCF)の駅は、日本の主要駅のように駅ビルはないし、弁当売場も充実していない。TGVの車内も、新幹線のような自動販売機はない。ただし食堂車があるので、ワインやビールといったアルコール類をはじめ、コーヒー、紅茶、サンドイッチなど軽食を買うことはできる。実際には、駅構内で飲み物やサンドイッチを購入してから乗車する人が多い。最近、リヨン駅内にスターバックスコーヒーもできた。

2階建てのTGVだが、スーツケース置き場は両方の階にある

TGVの車両は長いので、タクシー乗場まで時間がかかることも

「ヨーロッパ旅行の食事がサンドイッチでは物足りない!」という人には、リヨン駅構内にあるレストラン「ル・トラン・ブルー」がおすすめ。映画『ニキータ』にも登場した、シックなアールデコのレストランだ。メニューも、市内のフランスレストランの名店と比べても遜色ない。出発前または到着後に、ゆっくり食事をするのもいいだろう。

TGVの駅では、プラットホームが数字ではなくアルファベットで表記されることも。パリ・リヨン駅ではアルファベットのプラットホームが一般的だ。日本のような改札口はないが、鉄道パスを最初に使用するときは駅のスタンプが必要になるので、窓口でスタンプをもらわなければならない。そして乗車前に予約券を機械に通す必要がある。

TGVの車両が新幹線と違うところは、予約した車両を事前に確認しておかないと、自分の席にたどり着けないケースがあること。複数の編成をつないでいることがあるため、目的の車両まで通り抜けられないのだ。だから事前に車両ナンバーをチェックし、ホームのどのあたりから乗り込むか確認しておく必要がある。出発ギリギリではなく、時間に余裕を持って駅に到着すれば安心だ。ホームのどのあたりに何号車が停まるかは、ホームにアルファベット1文字で表示されており、それを見ればわかる。

車内では、各車両ごとに荷物を置くスペースが用意されている。最近のヨーロッパの旅行事情として、空の旅はクラスごとに重量制限が厳しく、LCCでは荷物ひとつにつき料金が追加されることも。そのため、荷物の多い旅行者は空の旅よりも鉄道を選ぶ傾向にあるという。空の旅は安全保安上、制限される物も多く、ゆえに鉄道を選ぶ人もいる。

たまたま同じ車両に乗り合わせた、南フランスの友人を訪ねるというスコットランド人の若いカップルは、「飛行機だとこれがお土産にできなくてね……」と、スコッチウイスキーのボトルを数本見せてくれた。

食堂車にはお菓子から軽食、アルコール類まで用意されている

TGV2等車の内部。抑え目の照明・デザインでくつろぎの時間を演出

TGVでは大きなスーツケースで旅する人が多く、荷物を置くスペースにスーツケースが収まりきらないことも。安心してスーツケースを収めるためにも、早めの乗車をおすすめしたい。近くに係員がいないケースが普通なので、女性旅行者などは周囲にいる力のありそうな男性客に頼み、手伝ってもらったほうがいいだろう。見知らぬ男性に声をかけるのは不安かもしれないが、ヨーロッパはレディファースト、紳士の国が多いから大丈夫。

TGVでは、日本のような出発のアナウンスはなく、じつに淡々と発車する。車内の座席は1等が横3列(2人席+1人席)、2等が横4列(2人席+2人席)。日本の新幹線のように座席を回転させ、向かい合って座るようにはできていないが、車両中央部に対面の4人席が設置されている(いわゆる「集団見合い式」の配置が多い)。また、新幹線のように各車両を車内販売が回ってくることもない。車内で周囲のフランス人の乗客たちを見ていると、食事の時間になるとそれぞれサンドイッチなどを取り出し、周囲も気にせず食べ始める。

個人主義のフランスらしい旅を満喫できるのも、TGVの楽しみ方だ。