3月15日のミニ・スーパーチューズデーが終わった。民主党では、クリントン氏が7月の党大会で正式な大統領候補としての指名獲得をほぼ確実にした。一方、共和党では、トランプ氏が引き続きリードしているものの、先行きはまだ不透明だ。

3月17日時点でトランプ氏を支持する代議員は673人で、2位のクルーズ氏の411人を大きく上回っている。ただ、クルーズ氏が、撤退を表明したルビオ氏を支持する代議員(169人)や、ケーシック氏を支持する代議員(143人)の大半を味方につけることができれば、トランプ氏との差は消滅する。トランプ氏は、残る代議員の6割近くを獲得しなければ、指名獲得に必要な過半数に達しないとの報道もある。

「競争あるいは周旋による党大会」はかなりの劇薬

このまま、トランプ氏が党大会での指名獲得に至るのか。実は、共和党主流派が同氏の指名獲得を阻止できる最終手段がある。

党大会では、代議員は自身が支持を表明した候補に投票する形式をとる。したがって、予備選で過半数の代議員を獲得した候補は、半ば自動的に党大会で指名を獲得できる。しかし、どの候補も代議員の過半数に届かなかった場合は、「競争による党大会(contested convention)」あるいは「周旋による党大会(brokered convention)」と呼ばれる事態に発展する。

これは、代議員の過半数が支持する候補が現れるまで投票を繰り返すのだが、2回目以降の投票では代議員は支持表明した候補に縛られず、自由に投票することが可能になる(代議員が所属する州によって規定に若干の違いはある)。

そのため、指名獲得が困難と判断した候補が、自身を支持する代議員に対して、信条の近い候補や、要職(例えば副大統領候補)をオファーした候補に投票するように要請することができる。また、代議員は予備選に出馬した候補以外に投票することも可能だ。予備選を戦わなかった共和党有力者などが、急きょ浮上することもありうるようだ。

「競争あるいは周旋による党大会」はかなりの劇薬だ。予備選に参加した共和党員の意向が正しく反映されたとは言い難いからだ。旧聞に属するが、日本で小渕首相が倒れた際に、自民党有力者によって後継総裁に森幹事長の就任が決まった。これが「密室会談」と厳しく批判されたことが想起される。

なお、「競争あるいは周旋による党大会」は、共和党では1948年、民主党では1952年を最後に、その後は一度も起きていない。

もっとも、トランプ氏が予備選段階で代議員の過半数を獲得してしまえば、共和党主流派としても手も足も出ないということか。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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