フィギュアスケート・羽生結弦選手もかつて、野辺山で行われた「全国有望新人発掘合宿」に参加した

ジュニアグランプリシリーズが始まり、いよいよ2015-2016シーズンが本格的にスタートしました。選手たちはこのシーズンインに向けてそれぞれ準備を重ねてきているはずです。

今回は少し前の話題にはなりますが、7月末に野辺山で行われた「全国有望新人発掘合宿」についてご紹介します。トリノ五輪金メダリスト・荒川静香さんや、ソチ五輪金メダリスト・羽生結弦選手、バンクーバー五輪銀メダリスト・浅田真央選手を輩出しているこの合宿については、以前にもお話させていただきましたが、今回はその内容に少し触れてみます。

トリノ五輪銀メダリストのレッスン

今年も例年通り、「ノービスA」「ノービスB」に分かれて、それぞれ3泊4日の合宿を行いました。参加する全選手は、各地で行われる選考会を経ているため、各地のトップ選手たちが顔を合わせる機会となります。初めて参加する選手はもちろん、2回以上参加している選手たちにとっても、刺激が多い4日間になっているのではないかと思います。

この4日間で体力テストや氷上でのテストがあることは以前もお伝えしましたが、そのほかにもスケジュールがびっしりと組まれています。各方面のプロフェッショナルの先生がレッスンを行ってくださり、選手たちにいい刺激を与えてくださっています。

例えば今回、氷上レッスンを担当してくださったのは、トリノ五輪銀メダリストのステファン・ランビエールさんです。現役時代は、スケーティングはもちろんですが、スピンにも定評がありました。

ランビエールさんは、エッジの使い方や簡単なエッジワークの練習、ジャンプを練習するための予備動作、スピンのコツなど、見本を見せながらの指導を行ってくださいました。本人の希望で今回は通訳なしでのレッスンとなりましたが、「スケート」という共通の言語を通じて、選手たちは教えていただけるすべてを吸収している様子でした。

普段習っているコーチから言われていることも多々あるとは思いますが、同じ内容でも、言い方や伝え方によって、受け手側にとっては全く違うように感じるケースもあります。そういった面でも、選手たちにはよい刺激になったのではないかと思います。

陸上トレや表現を学ぶ時間

選手の勉強は氷上だけではなく、陸上でも行われます。

陸上トレーニングではウオーミングアップやクールダウンのやり方はもちろん、「なぜそれをしないといけないのか」という理由や、体幹トレーニングの行い方など、フィギュアスケート選手にとって必要なことを実践しながら学んでいきます。

また、「リズムと表現の時間」では、全員が同じ振り付けを踊りました。ですが、曲調を変えて踊りの強弱や感情の表現を行うなど、フィギュアスケートの演技の「幅」を広げられるようなレッスン内容となっていました。

これらのことは、すでに個人的に行っている選手も中にはいます。それでも、練習環境にあまり恵まれていない選手にとっては新しい知識を得ることができ、フィギュアスケートを続けていくにあたって視野が広がるいい機会になっているはずです。

食事中は栄養について学ぶ

氷上・陸上で勉強をする時間の合間には、選手たちにとって楽しみな食事の時間があります。実は、ここにも選手たちが学ぶ時間が設けられています。

食事はビュッフェ形式となっており、選手は食べたい物を自由に選べます。ただ、トレーの前にはスポーツ選手が摂(と)るべき栄養素・料理の盛り付け方が書かれたカードが置かれており、料理皿の前にはそれぞれ色分けされたカードに栄養士さんからのコメントが置かれているのです。

コメントは、「この料理にはたんぱく質が多く含まれています」「揚げ物は摂りすぎないようにしましょう」といった内容で、アスリートにとって必要な栄養素がきちんと把握できるようになっています。初めは何が糖質で何がたんぱく質なのは分からなかった選手も、毎食意識することで、栄養素が理解できていたようでした。

「チームジャパン」を育てる合宿

氷上はもちろんですが、パフォーマンスが向上する陸上での身体の使い方や、その身体を作る食事の仕方など、フィギュアスケートの「チームジャパン」を育てるための合宿といっても過言ではない野辺山合宿。この合宿を糧に、一人でも多くの選手が大舞台で躍動する日が来ることを、願ってやみません。

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筆者プロフィール: 澤田亜紀(さわだ あき)

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。関西大学文学部卒業。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では、優勝1回を含め、6度表彰台に立った。また2004年の全日本選手権4位、2007年の四大陸選手権4位という成績を残している。2011年に現役を引退し、現在は母校・関西大学を拠点に、コーチとして活動している。