猫を初めて飼った方は、その活発さと移動範囲の広さに驚くことでしょう。特に子猫時代は1日に何回もダッシュ&ジャンプを繰り返します。子猫らしい好奇心に満ちた動きは可愛らしいのですが「これって大丈夫なの?」と疑問に思うこともあるでしょう。今まで長年猫を飼ってきた方も、復習を兼ねて家の中に潜む危険をチェックしてみましょう。

植物・アロマセラピー

人間など他の動物に対しては無毒でも、猫に対しては強い毒性を示す植物があります。代表的なのはユリ科植物で、噛んでしまうだけでなく花粉を吸引しただけでも重篤な症状がでる恐れがあると言われています。他にも命に関わる危険な植物は、マイナビニュースの記事「食べたら突然死!? 猫がいる部屋に絶対に飾ってはいけない花・植物一覧」で紹介していますのでご確認下さい。

また、アロマには、植物を高濃度に濃縮した精油が使われています。長年アロマを焚いていた家の猫の肝臓に、異常が現れた報告があります。誤って舐めてしまったり、皮膚に直接かからないよう注意しましょう。アロマ・精油の詳しい解説はマイナビニュースの記事「猫がいる家でアロマをたくと命にかかわる!? 獣医師が解説」で紹介しています。

窓・ベランダからの落下注意

高層階に住んでいる方は、窓・ベランダからの落下に特に注意しましょう。猫は突然信じられない高さから、自ら落下することがあります。各地で多発しているため「フライングキャット症候群」という名前がつけられました。鳥や虫に飛びつこうとして落ちる説、あまりに高く遠近感が掴めず落ちた説などがありますが、フライングキャット症候群の原因は不明です。

また、猫は運動神経が良いので転んだり滑って落ちてしまうことは少ないですが、まれに足を滑らせる原因としてマットなどの布製品があげられます。マットをベランダにかけておくと、そこに飛び乗った猫の体重でマットが動き滑り落ちてしまいます。

「数十階から落ちても無事であった猫!」というニュースをたまに聞きますが、たとえ2階から落ちても骨折など怪我をしてしまうこともあります。2~3階建ての家でも注意が必要でしょう。

薬・サプリメントの管理

動物病院でも人間の薬を処方することはありますが、それは猫が飲んでも安全性が認められているものに限ります。ある種の薬は、人間や犬では安全性が高くても、猫が飲んでしまうと微量でも中毒に陥ってしまうものもあります。

また、サプリメントにも注意が必要です。抗酸化作用のあるα-リポ酸は、どこのドラッグストアでも簡単に手に入りますが、猫が一定量以上摂取すると急激な低血糖を起こし死亡してしまいます。

α-リポ酸は猫にとって魅力的な香りがするため、袋を食い破って食べてしまった報告もあります。これは有効な治療方法がないため非常に危険です。他にも、猫に対しては危険なサプリメントもあるので、薬・サプリメントは出したままにせず、棚やボックスなど猫が届かない場所に保管しましょう。

ひも・ビニールの誤食

特にまだ好奇心旺盛な子猫を育てている場合、ひも・ビニールの誤食に注意が必要です。誤食をしてしまう猫の殆どが0~1歳の猫です。飲み込んでしまうのは、スポンジ、ねずみのおもちゃ、消しゴム、靴下の欠片などがありますが、特に危険度が高いのはひも状のものです。髪ゴムやビニールひもなどを飲みむと、腸を締め上げ腸が破れてしまうことがあります。特に紐を好んで遊ぶ猫、ビニールが好きな猫は出したままにしないように気をつけましょう。

キッチンでの注意

基本的には、猫は火を怖がるので稀な例ですが、以前沸騰した鍋の中に足を入れ、肉球を火傷した猫が来院したことがあります。

また、野菜にも注意が必要です。猫が過剰に食べてはいけないニンニク、玉ねぎなどはお味噌汁やお肉料理に頻繁に使われます。お肉目当てで来た猫がまるまる玉ねぎなども食べてしまうこともあります。エスニック系の香辛料に顔を突っ込み、泡を吹いて来院した猫もいました。

クリスマスシーズンには手羽先の丸呑み、バレンタインにはチョコ、夏にはBBQで串ごと肉を食べたりと、シーズンによって誤食する食べ物の発生率があがります。手羽先が喉につっかかるとは猫らしき事態ですが、長年キャットフードを食べていると食べ方を忘れてしまうのかもしれません。

風呂場、火の元

湯船に落ちて溺れてしまう猫もいるようです。バスタブにタオルがかけてあり滑ったり、フタが不安定で落ちてしまったりすると、運動神経の良い猫であっても危険です。私が飼っていた猫はアイロンの匂いを嗅ごうとして鼻を火傷しました。大事に至りませんでしたが、アイロンに向かってシャーシャー唸っていました。また、見ていないところでアイロンが倒れてしまうのもとても危険ですね。

室内での骨折、怪我

骨折や外傷で来院する猫は、殆どが外に出る猫ですが、中には家の中で骨折する猫もいます。バランス感覚に優れ、柔軟性が高い猫でもアクシデントがあると怪我をします。

原因の1つは、何かに滑ってしまうことです。タンスやクーラーの上に布が敷いてあるとジャンプした時に力が加わらず、目標の手前で落ちます。2つ目はキャットタワーなどが壊れて落下することです。特に大柄な猫は注意が必要です。3つ目は足を引っ掛けることです。ラックなどの手すりに足を引っ掛け宙ぶらりんになって脱臼した猫がいました。4つ目はドアに挟まる、人間に踏まれるなどのアクシデントです。特に重いドアがある家では風でバタンと閉まらないようにしましょう。

密室

思わぬところに猫が閉じ込められてしまうことがあります。これから夏になりだんだん暑くなります。1日閉じ込められると熱中症になってしまうこともあるので特に気をつけましょう。ドアが勝手に閉まってしまう、引き出しに猫が入っていた、床収納や屋根裏を開けた時に猫が入り込む、といったことが起こらないよう注意しましょう。室内でずっと暮らしている猫は、自分で登ることはできても高い所から降りることができないこともあります。

室内に潜む多くの危険を紹介しましたが、猫は基本的には自分で危険を回避します。しかし稀に不運が重なり病院に運ばれてくる猫がいるのも事実です。そういったケースに陥らないように今一度家の中をチェックしてみてはいかがでしょうか。

■著者プロフィール
山本宗伸
獣医師。Syu Syu CAT Clinicで副院長を務め、現在マンハッタン猫専門病院で研修中。2016年春、猫の病院 Tokyo Cat Specialistsを開院予定。猫に関する謎を掘り下げるブログnekopediaも時々更新。