数年間から、黒髪が流行しています。そして最近では、太眉が流行の兆しを見せています。ブリーチやカラーリングで茶色くした"茶髪"は、1990年代後半に流行し始めました。ちょうど同じ頃、細い眉もはやり出しています。茶髪と細眉の流行が同じ時期、そして黒髪と太眉のリバイバルも同じ時期。これって、何かの偶然でしょうか。

景気と女性の髪型、メイクの関係

黒髪と太眉のブーム、景気と関係が?

ファッションの流行には、周期があります。いわゆる、「リバイバル=再評価」です。しかし、このリバイバルは規則的に5年、10年という周期で訪れるわけではありません。そこには必ず、社会の影響が存在します。つまり、社会の変化がファッションを生み出すわけですが、時代ごとに存在するある要因が共通して存在することによって、リバイバルが起こるのです。では、その要因とは何か。それは、社会経済のあり方と女性の社会的地位の問題です。

1980年代から90年代にかけての経済を振り返ると、1985年のプラザ合意によって急激な円高となり、内需振興策がとられます。その結果、1980年代の実質経済成長率は年率4.4%。いわゆるバブルを引き起こすきっかけとなりました。それが1990 年代に入ると、バブル崩壊となり、長きに渡って日本経済は低迷することとなります。

若い人は、バブルと聞いてもピンとこないかもしれません。彼氏の高級外車で大学まで送迎、夜景の見える高層レストランでの食事、船をチャーターしてのクルージングパーティー……。そんなことが日常茶飯事だったのです。1人の女性に、送り迎えだけしてくれる彼氏、プレゼントだけくれる彼氏、食事だけ連れて行ってくれる彼氏、そして本命の彼氏がいた、という話もありました。

バブル時代は女性が男性を選ぶ立場。とても強いポジションにいました。そんな時代にはやったのが、黒髪と太眉でした。実はこれ、平安時代の女性のスタイルと同じなのです。当時は母権社会で、女性が財産をすべて掌握していた時代。意外に思われるかもしれませんが、男性よりも優位でした。そんな平安時代も、黒髪の長い髪、そして公家眉とも茫々眉ともよばれる太眉でした。

そしてバブル崩壊後、1990年代後半からは茶髪と細くて薄い眉がはやり出します。黒髪では重くて暗い印象を与えるから、ということです。

景気が悪いと茶髪・細眉。その理由は明確で、景気が悪いと、男性たちはバブルのときのように女性たちにお金を使うことはできません。つまり、今度は男性が選ぶ立場になるわけです。もともと男性は女性よりも相手を守りたいという養護欲求や、相手を思い通りにしたいという支配欲求が強いといわれています。つまり、女性は男性に対してかわいらしく守ってあげたくなるような女性を演じることが、不景気で先行き不透明な社会を生き抜く術なわけです。

いま、黒髪と太眉が流行し始めているということは、社会経済が回復に向かっている証拠なのかもしれません。ファッションを一過性の流行廃りとみるのではなく、人々の心理や社会のありさまがあらわれていると思って見ていくと、とてもおもしろいと思います。

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著者プロフィール

平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理に詳しい。
現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は「化粧にみる日本文化」「黒髪と美女の日本史」(共に水曜社)など。