国内景気の上方修正と、物価や国際情勢への懸念・配慮とが相殺

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、1月27-28日に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)で、全会一致で金融政策の「現状維持」を決定した。また、それまでの「かなりの期間(低金利を続ける)」に代えて、前回12月から導入した「(利上げを開始するまで)忍耐強く待てる」との声明文の文言も踏襲した。

昨年夏以降の原油安を背景に、1月21日のBOC(カナダ中銀)の「サプライズ」の利下げ、22日のECB(欧州中銀)のQE(量的緩和)決定など、このところ多くの中央銀行が金融緩和を実施し、あるいは政策スタンスを緩和方向へシフトさせてきた。しかし、FOMCの声明文からは、利上げに慎重な、いわゆる「ハト派」的トーンの強まりはあまり感じられなかった。

まず、声明文の中で、FOMCは国内景気の判断を上方修正した。景気拡大ペースは「緩やか」から「堅調」へ、労働市場は「堅調」から「力強い」へと評価がアップグレードされた。また、原油安に関連して、「最近のエネルギー価格の下落は、家計の購買力を押し上げている」とポジティブな評価がなされた。

一方で、FOMCは物価について、「インフレ率は短期的に一段と鈍化すると予想される」として、下振れの懸念を強めた。ただし、中期的には2%に向けて徐々に加速するとの期待を表明している。また、「国際情勢(も検討材料にする)」の文言が追加されたことは、資源国・新興国の経済的困難や、各国中銀の金融緩和の動きなどにも目配りするということだろう。総合してみれば、国内景気の上方修正と、物価や国際情勢への懸念・配慮とが相殺された格好だった。

FRBの「次の一手」、有力視されたシナリオは不確実性を増している

FRBの「次の一手」は政策金利の引き上げだと、引き続き考えて良さそうだ。ただし、「2015年半ばごろに利上げを開始し、年末までに複数回の利上げを実施する」との、ひところ市場で有力視されたシナリオは不確実性を増しているのではないか。

昨年10-12月期の実質GDPは前期比年率で+3%を超えたとみられ、4-6月期の+4.6%、7-9月期の+5.0%からはややペースダウンしたものの、底堅い経済成長が続いていたと判断できそうだ。ただし、今年に入って米国北東部が大寒波に襲われているらしい。長引くなら、昨年のように景気に急ブレーキがかかる可能性も無視できない(2014年1-3月期はマイナス成長だった)。

FRBは今後の内外経済情勢を精査しながら、利上げ開始に向けた「一人旅」を続けることになりそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。