岐阜大学はこのほど、同大学大学院医学系研究科小児病態学・同大学院連合創薬医療情報研究科が「インターロイキン18(以下IL-18)」が受容体(レセプター)に結合した複合体の3次元立体構造を解明したことを発表した。同研究は、京都大学大学院理学研究科生物物理学教室構造生理学分科、同大学院工学研究科分子工学専攻生体分子機能化学講座などとの共同研究によるもので、研究成果は12月15日付の「Nature Communications」で公開されている。

「解明された複合体立体構造」(緑色:IL-18、水色:レセプターα、青色:レセプターβ)

「構造を用いた阻害薬開発」(結合部位を阻害する薬剤を設計)

人の体には、細菌やウイルスなどの病原体が侵入すると、「サイトカイン」(※1)という物質を誘導して感染から体を守る働きがある。サイトカインの1つであるIL-18は、炎症を強く誘導し病原体の排除に働く一方で、IL-18が過剰に産生されることで関節リウマチ(※2)などの免疫・神経難病を含む多くの疾患の発症・増悪が引き起こされるという。

IL-18活性化に対する薬剤として、抗体をはじめとする生物製剤がすでに臨床応用されているが、分子量が小さく細胞膜の中から核にまで入り込むことができる低分子薬剤(※3)の開発はまだ十分になされていない。

IL-18についても阻害薬剤開発が期待されているが、薬剤開発の重要な基礎となるIL-18とレセプター2種類の3者複合体構造、およびその活性化メカニズムを解明することは技術的に困難であったため、研究の開始からこれまでの約20年間、未解明だったという。

同研究グループは、遺伝子組み換え技術を用いてIL-18たんぱくとIL-18レセプターたんぱくを合成し、エックス線結晶構造解析(※4)の技術を用いて、複合体の3次元立体構造を原子解像度(※5)で明らかにした。

これによりIL-18(緑色)はIL-18レセプターα(水色)に囲まれるように結合し、IL-18レセプターβ(青)はIL-18レセプターαの側面に並んでIL-18と結合することがわかった。

また、IL-18とIL-18レセプターβの相互作用面に位置するアミノ酸の作用を溶液NMR法や表面プラズモン解析、細胞機能実験の手法を用いて測定したところ、IL-18側とIL-18レセプターβ側に位置するそれぞれ数個のアミノ酸が、相互作用に重要な働きを持つことも明らかとなった。

これらの結果は、これまで未解明なままであったIL-18のシグナル伝達の詳細を世界で初めて明らかにしたものだという。

同研究グループは、「今後、臨床応用が加速すると考えられ、種々の免疫・神経難治疾患などに対する新しい治療法の開発につながると期待される」とコメントしている。

※1 サイトカイン:細胞から放出される生理活性たんぱく質で、細胞間情報伝達分子として働く。生理活性たんぱく質とは、生体に作用し、種々の生体反応を制御するタンパク質である。特異的な反応に関与しており、ごく微量で十分な反応がみられる。インターロイキン(IL-18)はサイトカインの一種。特にリンパ球やマクロファージなどの免疫担当細胞が産生する生理活性たんぱく質をいう。

※2 関節リウマチ:免疫の異常により関節の腫れや痛み、また変形をきたす疾患。IL-18は症状の増悪因子として知られている。増悪とは症状が悪化することで、もともと悪かった状態がさらに悪くなること。

※3 低分子薬剤:分子量が300から500くらいの範囲で小さく、細胞膜の中や核にまで入り込むことができる薬剤のこと。化学合成が可能な場合に大量生産が可能となり、価格を下げることができる。

※4 エックス線結晶構造解析:たんぱく質の形(立体構造)を決定する方法の一つ。対象とするたんぱく質の結晶にエックス線を照射し、散乱したエックス線から原子の位置を決定する。立体構造を知ることによって、そのたんぱく質の持つ性質が表れる仕組みを理解することができる。

※5 解像度:コンピュータのモニタやデジタルカメラなど画像を扱う装置において、画像を表示したり入力したりできるデータの細やかさを表した数字として使用されるが、記事中の解像度は、観測するものがどこまで細かく観測されているかについて述べている。原子解像度とは原子一つ一つの位置を正確に区別できるほど細かく観測ができるという意味。