ユーロ圏では、景気低迷とインフレ率の鈍化に歯止めをかけるべく、ECB(欧州中央銀行)が次々に緩和策を打ち出している。6月と9月の理事会では、マイナスの中銀預金金利を含む利下げを決定した。また、9月には、民間金融機関に対して、TLTRO(条件付き長期資金供給)を実施。10月に入って、カバード・ボンド(住宅ローンなどの資産を担保にするが、発行体に債務が残る債券)の購入を始めた。近々、ABS(資産担保証券)の購入も開始する。さらに、「ECBが社債の購入を検討している」との報道もあり、ECBが米FRB(連邦準備制度理事会)や日銀のように国債購入によるQE(量的緩和)に踏み切るとの期待も出てきた。

金融緩和効果を高めるため、ドラギ総裁はECBのバランスシート(総資産)を現在の約2兆ユーロから、2012年ごろの3兆ユーロ程度にまで拡大する意向だ。ただ、9月のTLTROは、民間銀行からの需要不足により826億ユーロにとどまった。カバード・ボンドやABSは市場規模が小さく、一方で、社債や国債、とりわけ後者の購入にはECB内部でも批判が多いため、バランスシート約1兆ユーロ積み増しの「目標」達成は相当難しそうだ。

そうした中で注目されるのが、ユーロ圏主要銀行に対するストレス・テストの終了だ。11月1日から、ECB(欧州中央銀行)がユーロ圏内の主要銀行を一元的に監督する。それに先駆けて、ECBは対象銀行の資産査定(AQR)やストレス・テストを行ってきた。ストレス・テストとは、厳しい経済・金融環境においても、銀行が十分な資本を確保できるかをシミュレーションするものだ。2008年9月のリーマン・ショック後の金融危機や、2010年以降に本格化した欧州債務危機に際して、一部の銀行が資本不足に陥り、果てには破たんして、金融不安に拍車をかけたとの苦い経験に基づいている。

ストレス・テストの結果、資本不足の可能性を指摘された銀行は6~9か月以内に資本増強などの措置を求められる。過去のストレス・テストには銀行に対して甘すぎるとの批判もあったため、今回はかなり厳しいテストとなっているようだ。報道等によれば、ドイツを中心に複数の銀行が「不合格」候補として挙げられている。10月26日に公表されるテストの結果次第では、一時的にせよ投資家がリスク回避の動きを強めても不思議ではない。

その一方で、テスト期間中の銀行は、資本増強や資産圧縮(融資や投資の縮小)といった、経営の健全性を高める「守り」の姿勢が強かったが、テスト終了を機に融資や投資の拡大など収益拡大を狙う「攻め」に転じるかもしれない。そうであれば、減少傾向が続く金融機関の融資残高は増加に転じる可能性もある。次回12月のTLTROでは前回を大幅に上回る資金需要が出てくるかもしれない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。