米ドルがリーマン・ショック直後以来、6年ぶりに107円を超えた。また、主要国通貨に対するドルの実効レートは8月以降、上げ足を速めてきた。景況感の格差や金融政策の方向性の違いといった経済ファンダメンタルズが、今まで以上に強くドルをサポートしている。

米国の4-6月期の実質GDPは前期比年率+4.2%だった。7-9月期も+3.0%前後の伸びが見込まれている。これに対して、日本の4-6月期の実質GDPは前期比年率-7.1%、ユーロ圏は横ばいだった。7-9月期に関しても、日本は消費税率引き上げの影響が長引いており、ユーロ圏は対ロシア経済制裁やその対抗策の影響がこれから本格化するかもしれない。各国・地域の製造業景況感を比較すると、米国の好調ぶりが目を惹く。

次に、各国の金融政策の方向性の違いを、今後1年間の政策金利の市場予想を反映するOIS(翌日物金利スワップ)1年物の変化から捉えた。下図は7月1日からの変化幅で、ゼロからプラス幅が拡大するほど、利上げ観測の高まり、あるいは利下げ観測の後退を示し、逆にゼロからマイナス幅が拡大するほど、利上げ観測の後退、あるいは利下げ観測の高まりを示す。

7月以降のOIS変化に基づくと、対象国の中で、米国の利上げ観測が最も高まっている。9月17日のFOMCでは、「QE(資産購入)の終了後もかなりの期間、低金利を続けることが適切」との文言が修正される可能性がある。また、順当なら10月29日のFOMCで、QEが終了する見込みだ。それらのFOMCでは、利上げ開始に至るプロセスの詳細が示される可能性もある。これは「いつ」ではなく「どのように」を明らかにするものだが、市場で利上げ開始が現実味を持って受け止められるかもしれない。

米国に次ぐのが、夏場に高まった利下げ観測が後退している豪州、そして米国と経済関係が緊密で金利も連動しやすいカナダだ。日本は、政策金利の変化はほとんど予想されていない。

他方、NZでは7月下旬の中銀会合以降、利上げ観測が後退している。9月4日にサプライズ利下げがあったユーロ圏では、さらなる金融緩和観測が高まっている。英国でも8月中旬以降、利上げ観測が後退している。

以上のように、経済ファンダメンタルズは、今後もドルをサポートする状況が続くとみられる。ただし、ドルの上げ足が速かった分、短期的にはドルの過熱感に注意が必要かもしれない。目先的にドルの調整が起こるとすれば、以下のようなケースだろう。

  • 9月17日のFOMCが、予想外に緩和継続を強調する「ハト派」的内容となる

  • 9月18日にスコットランド独立派が勝利し、市場が動揺して強いリスクオフ(=円高要因)となる

  • ウクライナ、イラク、シリア、パレスチナなどの地政学的リスクが急激に高まる

  • 10月のユーロ圏銀行ストレステストの結果、11月の米中間選挙などがリスクオフの誘因となる

もっとも、それらが起こる確率は必ずしも高くはないだろう。大幅な調整なくドルが続伸するとのシナリオも念頭に置く必要はありそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。