多くの専門家の予想に反して、米国の長期金利(10年物国債利回り)が低下している(国債価格は上昇)。長期金利の低下は、投資家にリスクテイクを促し、株式などリスク資産の価格上昇に寄与している。一方で、為替市場でドル円相場が101円そこそこでこう着状態に陥っているのも、米長期金利の低下によるところが大きそうだ。

米長期金利の低下は、中央銀行であるFRBが金融緩和の姿勢を堅持していることが最大の理由とみられるが、米国債の需給面からもその理由を探ってみた。主に以下の3つの要因が指摘できる。

第1に、米国債の供給量の減少。財政赤字(≒ネットの国債発行額)は2012年終盤以降、急速に縮小してきた。景気回復による増収に加えて、一部減税の廃止や歳出削減が進められたからだ。

第2に、FRBがQE(量的緩和)の一部として、米国債を購入してきたこと。QEは昨年12月から段階的に縮小されてきた。ただ、過去1年間を振り返ると、新しく発行された米国債のほぼ全てをFRBが購入した計算になる。今年7月でも米国債購入は月200億ドル、年換算2,400億ドルであり、これは米国債発行額の約半分に相当するペースだ。

第3に、中国の存在。(米国からみた)外国による米国債購入は今年1-5月に計1,292億ドルで、中国がとりわけ大きく1,072億ドルと、全体の8割以上を占めた。中国が米国債を大量購入したのは、人民元売り・米ドル買いの為替介入を行ったからだろう。景気が鈍化するなかで、輸出振興策として人民元安が志向されたのだ。実際、今年に入って人民元は対ドルで大きく下落した。

米長期金利が上昇する環境が次第に整う!?

今後、上記3つの要因は消滅する、あるいは弱まるだろう。

CBO(米議会予算局)によれば、財政赤字は、2015年度(2014年10月-2015年9月)を底に拡大に転じる。また、FRBはQEを今後一段と縮小し、順調に行けば今年10月に終了する見込みだ。

中国による米国債購入も縮小しそうだ。中国の景気は持ち直してきた。また、米中戦略・経済対話において、中国は為替介入を控える約束をしている。既に、人民元は対ドルで上昇基調に転じている。中国が米国債を買い続ける理由は少なくなったと思われる。

FRBは「価格に敏感でない投資家」の存在を長期金利低下の一因と考えているが、FRB自身や中国人民銀行(中国の中央銀行であり為替介入の実行役)はその典型だろう。今後、それらの存在感が米国債市場で低下すれば、市場で適正な金利(価格)水準がより意識されるようになるだろう。そうなれば、景気の堅調を示す材料に、長期金利が素直に反応して上昇するケースが増えるだろうし、それを受けてドル高円安が再開する可能性が高まるだろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。