ペットコーナーには沢山のフードが並んでいます。バラエティに富んだラインナップにより、フードの選択肢が増えたことは大変良いことです。しかし、あまりに種類が多くて混乱される飼い主さんも多いのではないでしょうか。

(画像は本文と関係ありません)

キャットフードの種類

意外と知られていないキャットフードの種類。とくに総合栄養食と一般食の違いは大事なポイントなので注意しましょう。どの種類のフードなのかはパッケージに必ず表示されています。

総合栄養食

総合栄養食は、猫が必要とする栄養素を全て含むフードです。適切な量の総合栄養食と水だけで健康を維持することができるよう調節されています。日本(ペットフード公正協議会)では米国資飼料検査官協会(AAFCO)の基準を採用し、この基準をクリアしたフードだけが総合栄養食と表示することができます。

一般食

一般食と聞くと普通にバランスがとれた食事をイメージしますが、これは私たちでいう「おかず」みたいなものです。おかずなので一般食を主食として食べ続けると栄養が偏ってしまいます。「いつもあげている缶詰が一般食だった!」ということがないように一度ラベルをチェックしてみましょう。

療法食

療法食とは、栄養成分を調整して、特定の病気に対する食事療法として使われるフードです。「食事療法食」、「特別療法食」など様々な呼び方がありますが、大きな違いはありません。しかし「処方食」という呼称は、医薬的表現と判断されるため表示が認められません。

その他にも、副食、間食、栄養補助食などがあります。

健康な猫のフードの選び方

現在猫について特に心配なことがなく、猫も元気いっぱいという場合は総合栄養食を選んでおけば間違いないです。そして幼猫、成猫、老猫等、ライフステージにあったものを選んで下さい。

プレミアムフードってなに?

しかし、ひとえに総合栄養食といっても種類が豊富です。

いつかのメーカーは自社製品を「プレミアムフード」と銘打っています。しかし「プレミアムフード」という言葉に明確な基準はありません。

安全性の高い原材料を使用していたり、添加物を使用せず製造されているなど、より質の高いフードをプレミアムフードと呼ぶことが多いです。その分お値段もやはり高くなります。

例えば、アーテミス(米国ペットフード会社)ではヒューマングレード(人間向けの基準)の原材料を使って、合成保存料や着色料などは一切使用していないフードを製造しています。

プレミアムフードは、食の安全を考え、愛猫により理想的な食事を与えたいと願う飼い主さん向けフードです。また、体質によって下痢や嘔吐等が起こり易い繊細な猫が、食事をプレミアムフードに変えることでその頻度が抑えられることもあります。

ただし、プレミアムフードじゃなければ病気になりやすい、長生きできないということではありません。

猫に穀物が入ったフードを与えてもいいの?

猫は本来完全肉食動物です。しかし、殆どのキャットフードには小麦やトウモロコシ等の穀物が含まれてします。そのため、多くのキャットフードはエネルギー量の内、炭水化物が30~40%を占めています。猫の獲物であるネズミの炭水化物の割合が1~2%しかないことを考えると、凄く高いですね。

猫本来の食生活から離れた穀物入りのフードが、猫の健康に悪影響を与えているのでは、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、より猫本来の食生活に合わせることができる、穀物を全く含まないキャットフード(グレインフリーフード)があります。穀物を含まないことで、生物学的に最適な栄養バランスを作りだしています。

しかし、現在のところ穀物入りのフードが肥満や糖尿病などの病気と直接関係していることを証明した報告はありません。食事中の炭水化物の割合よりも、「高脂質食」、「食事の与えすぎ」、「運動不足」等の方が病気との関連性が大きいです。

ただ、本来の食生活に沿って栄養バランスを整えることは非常に理に適った考え方だと思います。

「日本人に合った食生活を」という言葉は良く聞きますし、私自身も肉をとりすぎる食生活(欧米型食生活)が続くと体調がいまいち下がると実感しています。

今後、もしもグレインフリーフードの方が健康的だと証明された論文が増えることがあるならば、世の中のキャットフードもグレインフリーフードにシフトしていくことが予想されます。

ウェット VS ドライ

ウェットフードとドライフードのどちらが猫の健康にとって良いのでしょうか。猫本来の食生活に合わせるとなると、やはりウェットフードです。自ら狩った生肉を食べていたので同じ程度の水分を含むウェットの方が近いでしょう。ウェットフードの70%前後が水分なのに対して、ドライフードは7%前後しかありません。

また、猫は泌尿器系の病気に罹りやすいです。これは一説に水分摂取量が少ないからではないかと考えられています。尿路結石や腎臓病の猫でウェットフードに変更すると、水分摂取量が増え、症状が改善することがあります。

ウェットフードの方がグラム単位のカロリー量が少ないので、お腹いっぱいになりやすくダイエットにも向いています。ダイエット中の1日の目標カロリー量を200kcalとすると、ドライフードだと約60gですが、ウェットであれば約250g食べることが出来ます。

まとめ

キャットフードも人間の食材同様、安全なもの、健康的なものほど高価になっていきます。

もちろん全ての飼い主さんが少しでも質の高い、猫本来の食事に近いフードを愛猫に食べてもらいたいことでしょう。しかし現実的な問題として、そこまでキャットフードにお金をかけられないという方が多いです。

実際、ヒューマングレードのウェットフードを毎日与えると、一般的なドライフードと比べて数倍のお値段になってしまいます。

異常なほど安価なフードを選ばなければ、病気の発生率に大きな違いはありません。どの総合栄養食を与えるかは飼い主さんの「愛猫への思い入れ」、「食へのこだわり」、「経済状況」を考慮して決めてもらっています。

病気の猫のフードの選び方

あなたの猫がなんかしらの病気に罹っていて、療法食を必要とする場合は、必ず獣医師に相談して下さい。病気によっては薬ではなく、フードが治療の鍵になる病気も沢山あります。

また、「猫の腎不全を考慮した作り」「下部尿路の健康維持」等とパッケージに書いてあるものは療法食ではなく、健康に配慮した総合栄養食なことが多いです。これは裏面のラベルを見ればすぐに確認できます。

療法食は獣医師専用なのか?

「獣医師専用」と表示してある療法食でも、ホームセンターやインターネットで簡単に購入できます。法令上、療法食は一般のペットフードと同様に扱われているので、診察を受けずに入手することができます。動物病院を介さないでも療法食を購入できるのは非常に便利です。

ところが、飼い主さんが自己判断で療法食選んだり、定期的な診察を受けずに療法食を与え続けることにより健康被害が起こるという問題が発生しました。

例1:先代の猫が慢性腎不全だったため、愛猫の尿量が増加したことから、飼い主が慢性腎不全だと思い腎臓病向け療法食を与えていた。しかし、症状が進行した段階で検査を受けたところ、実際には糖尿病が原因で尿量が増えていたことが判明した。

例2:猫が来院し、検査の結果ストラバイト尿石と診断された。ストルバイト尿石溶解時用の療法食を給与し、症状が改善した。その後来院が途絶え、飼い主はホームセンターで療法食を購入し続けていた。3年後に血尿が再発し、尿検査したところ別の種類の尿石(シュウ酸カルシウム結石)が見つかった。(これは、マグネシウムを制限したストルバイト尿石溶解時用の療法食の長期投与が、逆にシュウ酸カルシウム結石の形成を助長した可能性があります)。

療法食は治療の一環として使用されることが想定されているので、定期的な診察を受けながら使用して下さい。中には「動物病院からフードを購入していないので相談し辛い」と遠慮される飼い主さんもいますが、その点は全く気にせず聞いて頂いて大丈夫です。

療法食にはメーカーによっての違いがあるのか?

どのメーカーの療法食が一番いいのかは、猫によって異なります。

A社の尿路結石用フードでは尿路結石が再発してしまうので、B社のフードにしたら再発しなくなったということはよくあります。これはB社とA社を逆にしても起こることなので、一概にどのメーカーが一番いいということは言えません。

どのメーカーが好みかは獣医師によって異なりますが、私はロイヤルカナンとヒルズコルゲートを最初に選ぶことが多いです。

それは有名だから、高価だからという訳ではなく、上記の2社はペットの食事と病気に関する多くの研究を行っているからです。「このフードを食べたら、これぐらい病気が良くなった」という具体的なデータを科学的に集めています。そしてそれを獣医師向けに勉強会を開いて公開しています。

私も療法食が効かないと困ってしまうので、よりデータがしっかりしている、つまり信頼できるメーカーを選ぶことになります。

もちろん他のメーカーでも研究に力を入れている会社は多くあります。最近では国内メーカーからもJP STYLEという日本のペット事情に配慮した療法食も登場し、どんどん種類が豊富になっています。

まとめ

「慢性腎臓病の猫が療法食を食べてくれない」という問題は、動物病院でもっとも遭遇しやすい問題の一つです。

残念ながら猫にとって療法食はあまり美味しくないようです。どんなに素晴らしい効果のある療法食でも、猫ちゃんが食べなければ全く価値がありません。どうしても愛猫が療法食を食べてくれない場合は、与え方を見直したり、獣医師と相談しながら総合栄養食も視野にいれて適したフードを選ぶなど、愛猫に最適なフードを探して下さい。

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■著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。