猫の毛色と性格について解説している猫雑誌や書籍を時折みかけます。黒猫=フレンドリー、グレー=おっとり、白猫=時々神経質だが頭が良い、などなど。実際のところ、科学的に根拠はあるのでしょうか?

これまでの研究

毛色と猫の性格に関する研究は、すでに何人かの科学者が行っています。しかし、猫に直接性格をインタビューするわけにはいきません。様々なトライアル(知らない人と会わせる、知らない環境に連れて行くなど)に猫を参加させ、その反応に点数をつけ段階的に評価したり、外猫の分布(この柄は都会に多い、田舎に多い等)から推定したものが殆どです。まずは、そうした研究の一部を紹介します。

■1977年
縞模様を起こす遺伝子を持たない猫(黒、ブルー(グレイ)等)は、縞模様を起こす遺伝子を持つ猫(キジトラ、茶トラ等)と比べて、都会に馴染むことができる。

■1995年
オレンジ色の遺伝子を持つ雄猫(茶トラ、茶シロ等)は、他の雄猫と接触すると攻撃的になりやすい。

■2010年
黒、茶トラ、キジ、サビの猫のグループと、それらに白が混ざった柄の猫のグループ(黒白、茶シロ、キジシロ、三毛)を、見知らぬ人に会わせて反応を比べた。結果、2つのグループ間に大きな反応の違い(=新しい環境に対する適応力の差)はなかった。

毛色と性格の関係性を強く証明することは「できない」

詳細は省きますが研究の結果は論文ごとにバラバラです。つまり、現在のところ毛色と性格の関係性を強く証明することはできないと言えるでしょう。

また2012年の論文に以下のようなものがあります。

インターネット上で5種類の毛色の猫に対する印象を、10項目・7段階で評価してもらいました。この研究では、自分の家の猫ではなく、その毛色の猫に対するイメージを答えてもらいました。その結果、茶トラの猫は「フレンドリー」、三毛猫は「寛容でない」、白猫は「よそよそしい」等の印象を、人々が持っていることがわかりました。

これは雑誌やネット上の記事にあるような、茶トラ=活発、キジトラ=シャイ、白=大人しい、三毛、サビ=マイペース等の意見とおおむね一致していることがわかります。

毛色と性格に関するいくつかの仮説

ここからは、このイメージ調査から考えられる仮説をいくつか紹介しましょう。

■毛色の歴史
もともと、猫の毛色はキジトラしかありませんでした。その後の突然変異で、オレンジ色の茶トラが生まれ、黒や白などの単色の猫などが生まれてきました。一度突然変異した遺伝子が、その子孫に受け継がれ、今日の猫は様々な毛色・柄になりました。

毛色の元祖であるキジトラの猫は、他の毛色の猫よりも野性的で警戒心が強いと考えられます。そのため、キジトラは「野性的」、「シャイ」な性格が多いと言われます。

反対に比較的最近になって現れた黒や白などの毛色の猫は、人間と共生することに慣れているので「穏やか」、「フレンドリー」な性格と評されることが多いです。

誕生した年代が新しい毛色ほど「人間になれている」、古い毛色ほど「野生的な性格が残っている」という考え方です。

■毛色と性別
三毛猫とサビ(トーティ)は殆どが雌猫です。そのためこれらの毛色の猫の印象は雌猫の性格の特徴と似通ったものになるでしょう。すなわち、「マイペース」、「あまり甘えてこない」など、雌猫のイメージと合致したものです。

反対に茶トラや茶シロには雄猫が多いです。経験的に茶トラの10匹中8~9匹は雄です。雄猫の特徴は「甘えん坊」、「活発」など。確かに茶トラの猫は大きくて活発な猫が多いです。

性別に偏りがある毛色は、その毛色というよりも性別による影響が強く出ているのでしょう。

■白色遺伝子の影響
一部の白猫は聴覚が悪いことがあります。これは、毛色を全身白にする遺伝子が、毛色だけでなく音を感知する部位の発達を阻害するからです。この障害は特に目が青い白猫に多いです。

そのため、大きな物音にも動じず「大人しい」、視覚に頼ることが多いので「注意深い」などのイメージを持たれることが多いのかもしれません。

また、非常に稀なケースですが、白猫の一部はアルビノ(全身の色素が生まれつきない疾患)である可能性があります。アルビノの動物は視力障害があることがあり、動きが遅いことからやはり「大人しい」と思われていると指摘する科学者もいます。

もちろん白猫の全てがこのような障害を持っているのではなく、むしろ殆どの白猫は健康体です。しかし、そうした一部の白猫が与える印象から、白猫が「大人しい」、「注意深い」と思われているのかもしれません。

まとめ 「毛色で猫の性格は決まらない」

私は毎日数十匹、年間に結構な数の猫と会いますが、毛の色と性格に関して考えてみると「確かに言われてみれば」という程度の感想しか持っていません。正直な所、あまり差は感じないんですね。

確かにキジトラはシャイで、茶トラは元気な猫が多い気はしますが、もちろんキジトラでもフレンドリーな猫にも沢山会いました。

私が見ているのは病院に来たときの表情だけなので、家での本来の性格は飼い主さんにしかわかりません。猫は飼い主さんの前と、知らない人の前とで性格が全然違うので、それも統計を取るのが難しい理由の一つでしょう。

海外でも、毛色が性格に関係していると信じる人が多く、里親待ちの猫でも毛色によって里親が決まる割合に差があることが報告されています。特にアメリカでは、黒猫はミステリアス、白猫はよそよそしい、サビは寛容でないというイメージがあり、里親が決まりにくいようです。多くの獣医師が「これらのイメージは根拠のない偏見であり、そういったことがあってはならない」と注意喚起しています。

猫の毛色と性格について想像することは楽しいですが、あくまで占い程度の信憑性しかないということを覚えておいて下さい。

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■著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。