中国人の妻と結婚して9年目になる著者が、日常生活を送る中で感じた、日中の文化の違いを紹介するコラム【中国人妻、あるある!】。前回は、「驚くほど『教育熱心』である」ことを紹介した。今回は、「『熟語』で生き方を教えてくれる」である。

日本人も四字熟語を学校教育や日常生活の中で学習する。筆者も国語は好きな科目だったので、それなりに勉強もした。だが、中国は漢字の発祥の国であると同時に、歴史が長いので、熟語の数も日本より多いようだ。従って、妻から聞いたことのないような熟語を聞くことがたびたびある。しかも大体、それは私の目を見開かせてくれるようなものが多い。いわば妻は、私にとって熟語を使って生き方の方向性を示してくれる"メンター"である。今回紹介するのは、そうした熟語の一つ『知足常楽』である。

『知足常楽』、読んで字の通りの意味である。「満足することを知っている人は、常に楽しく人生を生きることができる」(私の意訳です)という意味のようだ。

結婚する前の私は、これができなかった。どんな状況になっても、満足するということを知らない。目標が達成し、安定期に入ってくると、それを壊したくなり、新しい目標を作って、新たな挑戦を始める。そんな人生を続けてきた。向上心が強いといえば聞こえはいいが、要するに、自分の願望を実現しようとあがき続けてきた。安定してある程度の充足感を得ると、それが当たり前になってしまい、より違う次元を求めてしまうという性格だった。

これは、当媒体でも紹介させていただいた、木暮太一氏の著書『カイジ「命より重い!」お金の話』(サンマーク出版、定価1,500円+税)にも、書かれていた。例えば、宝くじに当たった人が不幸になるケースが少なくないのは、大金を使って贅沢をすることに慣れるうちに、だんだん満足感を得るためのハードルが高くなり、しまいに当せん金を使い果たしてしまい、さらには借金をしてまで贅沢な暮らしをしてしまうようになることが多いという。このことは、経済学でも『限界効用逓減の法則』という法則が存在することからも、立証されているということだ。

私は、見事にこの法則が指摘するような人生を歩んできた。

妻は私と正反対で、口癖は「満足している」、「幸せ」、「十分だよ」…など、常に安らかな気持ちで日常を送っている。

妻は中国の重点大学の大学院卒業後、日本の大学で働いていた。キャリアウーマンになることを、妻の両親も妻自身も予定していたはずだが、私と結婚して、仕事をやめ、今は子育てと家事に専念している。前みたいに好きな仕事をやりたくないかと、私が聞くと、「今の私は一番幸せだよ、満足している」と答える。

普段は贅沢していない分、私は誕生日や記念日に服を妻に買ってあげたいと思う。だが、各シーズン5着の服があれば満足する妻はいつも「大丈夫、今のある物で十分」と言うのだ。

また、私に対する要求は、「毎日無事に帰ってくれればいい」。「お給料をもっと上げて」とか、「出世しろ」とか、「もっと優しくして」などは一切ない。

私はこんな妻に、自分の人生を救う言葉を教わった。今持っている全てを大事にすることも学んだ。そして、周りの景色がきれいに見えるようになった。

「足るを知って生きる」。そんな人生を歩んでいきたいと思わせる熟語が、『知足常楽』なのである。

(イラスト : ミサイ彩生)