電通こころラボ(Dentsu Psychological Lab)は、日本における心のケアサービス市場の実態の"見える化"に向けた取り組みの第1弾として、全国5万人を対象とした「日本人の幸福度調査」を実施した。

本調査では、心理にかかわる国内外の団体・専門家(全国心理業連合会[以下、全心連]、世界銀行 Development Research Group コンサルタント 関根氏、ニールセン ニューロフォーカス ディレクター 加藤氏の知見にもとづいた3つのアプローチによって、日本人の幸福度が学際的に把握、分析されているのがポイントとなる。

全心連 浮世氏&高溝氏の知見に基づく設問と調査分析

【設問】最高に価値のある人を10、価値のない人を0 と想定した場合、今のあなたは自分自身に何点をつけますか? また、過去のあなたは何点で、将来のあなたは何点ですか?
「自己肯定感」と「将来への希望」は幸福感の大きな要素。この設問では、回答者が自覚している"自己肯定(「今」、「過去」の点数)"及び"将来への希望(「将来」、「将来-今」の点数)"を捉えることを目的としたものである。

地域別の傾向でみると、「自己肯定感」が高いのは近畿地方、「将来の希望」が高いのは九州地方。九州新幹線の開通など、産業や交通の発達が将来への期待感を上昇させているのではないかと推察されている。

●「自己肯定感」スコア(今と過去における自分の価値の点数)
近畿地方:今の自分=5.52(地域1位)/過去の自分=5.64(地域1位)
全国平均:今の自分=5.41 過去の自分=5.52
●「将来への希望」スコア(将来の自分の価値の点数と、「将来」-「今」の差異)
九州地方:将来の自分=6.23(地域1位)/「将来」-「今」=0.83(地域1位)
全国平均:将来の自分=6.06/「将来」-「今」=0.65

【設問】今のあなたを季節にたとえると、いつぐらいだと思いますか?
この設問では、幸福感の大きな要素である"自己肯定感"や"将来への希望"のイメージが、回答者にとってどう捉えられているかを知ることを目的としたもの。イメージは主観的なものであるが、心理学では無意識を知るためにインスピレーションやイメージを使うことがある。

<心理学的解釈>
【春】… 始まり。これから良くなる。将来への希望。
【夏】… パワフルさ。新しいことに何でもチャレンジできるようなメンタルのベース。
【秋】… 成熟期。ひと山越えた段階でのこれまでの集大成。
【冬】… 次への準備。エネルギーを蓄える、現状維持。

全国的には秋が多く(39.2%)、次いで冬が多かった(22.8%)ことから、ひと山越えた成熟期、これまでの集大成、次への準備をはかろうとしていることが見て取れる。高度経済成長期からバブル崩壊を経て、新しく価値転換をしようとしていることが推測される。

先の設問で「将来への希望」が最も高かった九州地方であるが、この設問では県によって違った様相を見せており、大分県や佐賀県では「冬」と答えた割合(大分26.0%、佐賀25.0%)が多く、九州南部に比べるとエネルギーが内向していることが推察される。

世界銀行Development Research Group コンサルタント 関根氏の知見に基づく設問と調査分析

【設問】今、あなたの目の前に10段まである階段があります。0段目を最悪の人生(幸福度)とし、10段目を最高の人生(幸福度)に例えるとすると、今現在、あなたは、自分の人生(幸福度)が何段目にあると思いますか?
回答者の現在の気持ちなどの短期的な幸福度だけでなく、総合的にみた人生への幸福度を評価することを目的とした設問。

全国平均の幸福度は5.5 で、各県の平均幸福度からは、地域性などの目だった傾向は見られなかった。この結果は、OECD のBetter Life Index(2012)のLife Satisfaction (同じく人生の満足度(0~10)を階段にたとえた指標)と比べた場合、ほぼ同じ水準(日本はのスコアは6)であることが確認された。ただし、他のOECD諸国のLife Satisfaction 平均スコアは、6.6で、日本は34カ国中、下から9番目。

ニールセン ニューロフォーカス ディレクター 加藤氏の知見に基づく設問と調査分析

【設問】あなたが100歳まで生きるとしたら、何歳のときがもっとも幸せだったといえるでしょうか? (年齢を数字で回答)
年齢に応じた主観的な幸せが、人生のいつであるか(過去・今・未来)の把握を目的とした設問。

幸福度は加齢とともにU字型を描くことが一般的(40歳前後を底とする報告多)だが、本調査結果では、40歳前後は実年齢が、40歳以下は年齢を重ねる方が、40歳以上は若かりし頃が幸福だと思う傾向にあった。言い換えると、本調査結果では一般的なU字型の加齢と幸福度の関係ではなく、"全く逆の∩字型"になる。つまり、40歳前後の人は今を幸せだと思い、40歳以下と以上の人は、今を不幸せ(昔または未来と比較して)と思うようである。

過去の調査では、若年層では収入、熟年・高齢層では健康が幸福度の主要因として挙げられていることから、安定した収入と健康が同時に満たすことができる、40歳前後が最も幸せだと思う年齢になったのではないかと考えられる。なお、男女でみると、高齢になるにつれて男女差が大きくなり、男性のほうが幸せだと思う傾向がみられた。

【設問】あなたの今の幸せ度を0から100のスケールで50とすると、あなたのもっとも親しい人(家族や友人など)の現在の幸せ度は、何ポイントになりますか?
幸せ度は伝播するかどうかを検証する第一歩となる設問。自身と親しい他者との差が小さいほどコミュニティー毎に幸せ度が偏る。この偏り度と、前の設問を比較することで、今のコミュニティー、または人間関係への満足度が間接的に評価できる可能性がある。

男女とも、「もっとも親しい人(家族や友人など)の現在の幸せ度」は自身の現在の幸せ度よりも高く、特に女性のほうが高い。男性は10代と80代が高くなり、40代が低くなるU字型の傾向がみられた。

女性は80代になるとポイントが落ちているが、これはサンプル数が少ない(19名)ことが大きく影響しているため、あくまでも参考値

なお、都道府県別にみると、愛知県は男女とも自分よりも親しい人のほうがより幸せだと感じている人が多く、滋賀県だと、男性は親しい人のほうが幸せだと思う率が高いが、女性は自分と親しい人との幸せ度が近い傾向がみられる。

逆に福井県と大分県では、男性は自分自身と親しい人との幸せ度が近いが、女性は親しい人のほうが幸せだと感じている。徳島県では、男女ともに自分自身と親しい人の幸せ度がともに近い傾向がある。

【調査概要】
調査名 : 日本人の幸福度調査
調査対象 : 20代~80代 5万人
調査地域 : 全国
調査時期 : 2013年7月11日~12日
調査手法 : インターネット調査