杏林大学医学部精神神経科の古賀良彦教授

不眠による欠勤や遅刻、眠気のせいで作業効率が下がるなど、不眠と関連して生じる日本の経済損失は年間3兆4,000~5,000億円にも上るといわれている。また、不眠はストレスや肥満、糖尿病などで心身に影響を与えることが研究を通じて報告されている。

まずは「かくれ不眠」チェック

週2回以上、1カ月継続して不眠状況が見られるようであれば、それは不眠症として治療対象となるが、一時的な不眠症状などで特別なケアをせずに過ごしている人も多い。杏林大学医学部精神神経科の古賀良彦教授を中心とする「睡眠改善委員会」は、こうした症状を「かくれ不眠」と命名している。また、同委員会はこのほど都内でセミナーを実施し、「かくれ不眠」の具体的な対策を呼びかけた。

実際、どのような状態であれば「かくれ不眠」となるのか。同委員会は以下の項目にひとつでも当てはまる場合は「かくれ不眠」と定義している。特に、※の項目に関する症状が強い場合、若しくは合計で10個以上該当する場合は、一度専門医に相談することを推奨している。

・寝る時間は決まっておらず、毎日バラバラである
・平日にあまり寝られないため、休日に「寝だめ」する
・起きた時に「よく寝た」と思えない※
・寝つきが悪いことが多い※
・夜中に何度か起きてしまう※
・思ったよりも早く起きてしまうことがある※
・集中力が途切れがちで、イライラすることが多い
・最近、面白そうなことがあってもあまりやる気が出ない
・自分は寝なくても大丈夫な方だ
・眠れないことは異常なことではないと思う
・仕事が忙しいと、寝ないで夜遅くまで頑張ってしまう

また同委員会は、2011年に4万5,137人に対して行った「かくれ不眠」チェックを通じて、「かくれ不眠」を症状や生活習慣で異なる5つのタイプに分類している。

・「眠りが浅い」タイプ
 生活習慣・ストレスなどへの反応は弱く、浅い眠り系への指標の反応が強い。相対的に中高年代が多い
・「高ストレス」タイプ
 生活習慣系に加えて、ストレス系の反応が顕著に高い
・「生活不規則」タイプ
 生活習慣系の反応が大きく、生活の規則性を確立できてないために軽度短期不眠症状を呈している層が多い
・「自分は大丈夫」タイプ(「不眠慣れ」タイプ)
 ほぼ全ての要素に反応し、特に不眠慣れの要素が強い一方、ストレス系の反応が薄い
・「初期かくれ不眠」タイプ
 反応個数が少なく、特定領域に集中する傾向もないため、ごく初期かつまだ軽度の短期不眠者

「自分は大丈夫」が重度の「かくれ不眠」!?

同委員会は2012年に、618人に対して睡眠計測データを用いた調査を実施。その結果、5つのタイプの内、「自分は大丈夫」「高ストレス」タイプは最も本格的な不眠症に近い重度の「かくれ不眠」であることが分かり、特に中途覚醒の回数の多く、覚醒している時間も長い傾向があったという。

加えて、「かくれ不眠」の勤労者2,064人に対して行ったアンケートでは、両タイプの人は、「全体的に仕事への意欲が減った」「ごろごろすることが多くなった」「人と話すのが煩わしいと感じる」などと、仕事や日常生活、人間関係における影響が強い傾向があることが判明した。

「自分は大丈夫」(折れ線はピンク)、「高ストレス」(折れ線はスカイブルー)の仕事や日常生活、人間関係における影響。折れ線のブラックは全体

睡眠の質を高める3つの時間

睡眠コンサルトの友野なおさん

では、どうすれば「かくれ不眠」は改善できるのか。睡眠コンサルトである友野なおさんは、質の良い眠りのための「眠活」を提案している。「眠活」のポイントは、睡眠前の1時間、睡眠中の7時間30分、起床後の30分の3つである。

睡眠前の1時間には、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を促すために、蛍光灯などのメインの照明をオフにし、暖色系の灯りに切り替える。その際、なるべくテレビやパソコン、携帯電話は遠ざけるようにする。この時間の過ごし方としては、アロマやストレッチ・ヨガ、音楽、読書などを行い、副交感神経が優位になるように心がける。

睡眠中の7時間30分には、この時間の長さと時間帯を日常的にキープさせることが重要。そのために、何時に寝て何時に起きたのか、また、眠り具合(良く眠れた、眠気が強かったなど)などを記した「睡眠日誌」をつけるようにするといいという。現在は、ベッドサイドに置くだけで睡眠状況を記録できるオムロン睡眠計「HSL-101」や、スマートフォンを通じて睡眠中の動きを検知できるアプリのエスエス製薬「ぐっすり~ニャ」などもある。

起床後の30分では、体内時計を調整することが大切となる。太陽の光を直接目に入れることで交感神経を刺激し、呼吸・循環・消化系の活動を促すことができる。また、太陽の光は脊髄神経を持続的に刺激するため、顔面や背部の抗重量筋の活動も活発になる。

その他の方法としては、食事の工夫(夕食は早めにほどほどに、朝食はしっかり取る)、軽めの運動、ぬるめの入浴などが挙げられる。こうした対策をとっても症状が回復しない場合は、専門医に相談するなど症状を軽視しないことが大切といえる。