小学生のころ、女子に人気のある男子は活発なスポーツマン

小学生のころ、女子に人気のある男子はたいてい活発なスポーツマンだった。特に50メートル走のタイムが速い男子は、たとえルックスが微妙でもモテモテだったものだ。

一方、ルックスも成績も良いが、性格がおとなしい男子の場合、小学生社会においては決して女子にモテるわけではなかった。そういう男子は年を重ねるにつれ少しずつルックスの良さが女子に注目され始め、さらに成績の優秀さが功を奏して、一流大学に進学したり、一流企業に就職したりするころに人生最高のモテ期を迎えることが多い。

このころになると、50メートル走のタイムなんてものは女性の心を射止める要素ではなくなる。もし足が速いことが周囲の女性たちに知れたとしても、その男性が仕事ができない人だった場合、女性たちに「○○さんって足"だけ"は速いんだよー」とか「"無駄に"足ばっかり速くなってさー」などと、厭味を言われたりする可能性もある。

これはつまり、世の女性たちの男性に対する好みが、年を重ねるにつれ徐々に変化していくことを意味している。小学生時代は「活発なスポーツマン(ルックスは問題外)」を好み、中高生になると「お洒落でルックスが良い、陽気で活発な男子(必ずしもスポーツマンでなくとも良い)」を好むようになり、社会に出ると「お洒落でルックスが良く、活発で頭も良い男子(一流企業や一流大学)」を好むようになる(※あくまで一般論です)。

女性たちの男性に対する好み、アラサーを迎えて以降は劇的に変化

そして、もっと劇的に変化するのは女性がアラサーを迎えて以降だ。このあたりになると、好みの男性の条件においてルックスとスポーツはさほど重要でなくなってくる。もちろんモデルで大活躍できるほどのルックスや、プロで大金を稼げるほどのスポーツマンなら話は別だが、多くの場合、これまでの恋愛経験の中で「ルックスやスポーツで飯は食えないし、それだけでは人生は豊かにならない」という当たり前のことを悟るため、女性たちは「性格や価値観が自分と合致していること」「経済力が一定水準よりあること」「会話が楽しいこと」などといった内面で男性を判断するようになる。

そして、この境地に達した女性は、これ以降は同じ好みを維持していくことが多い。すなわち人生を80年と考えると、女性は約50年間も男性を内面で評価することになり、ルックスやスポーツを評価対象に入れるのはわずか20年ほど、ましてやそこに徹底して執着するのは10年にも満たない計算になる(※繰り返しますが、あくまで一般論です)。

中学生以来のイケメン好きが社会に出ても変わらず、独身のまま38歳に

ところが、世の中にはこういった人間としての必然的な変化の過程を、どういうわけか辿らない人もいる。たとえば都内の某企業の事務職で働くE子がそうだ。

東北出身の彼女は、小学生時代は足が速い活発な男子に惚れ込み、中学生になると、某ジャニーズアイドルのファンになったことをきっかけとして、無類のイケメン好きになった。そして、いつのまにか足が速いことなど好みの条件ではなくなり、お洒落でイケメンでありさえすれば良いという極端な男性観が確立。E子曰く「イケメンだったらどんな会話をしても楽しいから、内面は関係ないのー」だとか。イケメンは得である。

もっとも、この程度なら若年時代の麻疹みたいなもので、多かれ少なかれ誰でもあることかもしれない。男も女もルックスの良さに憧れる時期はあるものだ。

しかし、E子がすごいのは、中高生時代に確立された極端な男性観を社会に出てからも変わらず持ち続け、それゆえに独身のまま38歳になったことだ。彼氏もいない。

婚活パーティーでも、なかなか良い出会いが見つからず

もちろんE子には強い結婚願望があり、年齢的に焦りもある。かくして現在も日夜出会いを求めて合コンに参加したり、婚活パーティーに参加したり、すなわち絶賛婚活中なのだが、そこで相手の男性に求める条件も10代のころと変わらずルックスオンリーであるため、なかなか良い出会いが見つからない。しかも無類のアイドル好きのためか、男性に求める理想の年齢も20代だ。失礼かもしれないが、なかなか出会えなくて当然だろう。

いったいなぜ、E子はこうなったのか? その理由を探ってみると、E子の恋愛経験の少なさに辿り着いた。E子はイケメンにこだわるあまり、学生時代から「イケメンじゃないと付き合わない」というポリシーを貫いており、その結果、ほとんど男性経験がないまま36歳になった。アイドル顔負けのイケメンなど、そう簡単に出会えるものでもなければ、出会えたとしても都合良く付き合えるものでもない。だから、他の多くの女性は現実を考えながらさまざまな恋愛経験を重ね、それによってイケメンにこだわることの不毛さを学習するのだろうが、E子にはその過程がない。だから、恋愛年齢は中高生のままなのだ。

これは怖いことだと思う。若いころの気の迷いでもいいから、少しは恋愛経験を重ねておけば、E子にも前述したような男性観の変化が訪れたと思うのだが、そういう変化をもたらす事象がなかったばかりに、E子はアラフォー独身女性によるイケメン目当ての婚活という先が見えない闇に迷い込んでしまった。たとえ、この先もし理想のイケメンと付き合うことができたとしても、普通の女性が20代で経験する「外見だけでは結婚できない」という当たり前の真理に遅ればせながら気づくかもしれない。そして、それに気づいたE子が再び婚活をスタートさせたときは、いったいいくつになっているのだろう。

若いころの恋愛経験とは、つくづく重要なことだと思う。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。1976年大阪府出身。早稲田大学卒業。『神童チェリー』『雑草女に敵なし!』『SimpleHeart』『芸能人に学ぶビジネス力』など著書多数。中でも『雑草女に敵なし!』はコミカライズもされた。また、最新刊の長編小説『虎がにじんだ夕暮れ』(PHP研究所)が、2012年10月25日に発売された。各種番組などのコメンテーター・MCとしても活動しており、私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。

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