正門横には寺の名前の上に「らくがき寺」と堂々と彫られている碑が立つ

日本だけでなく世界の多くの遺跡や施設でらくがきが問題になっている。もちろん日本の神社仏閣などでもらくがきは御法度であるが、日本でおそらく唯一、参拝客にらくがきを勧める寺がある。京都府八幡市にある「単伝庵(たんでんあん)」で、通称“らくがき寺”という。

京都府八幡市は“東高野街道起点のまち”。伊勢神宮とともに二所宗廟(にしょそうびょう/祭神が天皇であるため、皇室の祖神として祀られている)の一社として知られる「石清水八幡宮」がある、歴史深い地としても知られている。

一帯は、本宮が置かれた「男山」を除けば平地が多いので、徒歩で、あるいは京阪電鉄「八幡市」駅前にある観光案内所のレンタサイクルを使えば楽に市内の見学ができる。

「石清水八幡宮」の入り口に立つ大鳥居

大黒様に願いがよく見えるように壁に願いを!

八幡市はエジソンが電球を発明した時に使った竹を提供した場所であることから、京阪電鉄「八幡市」駅前にはエジソン碑が立っている。その駅から道沿いに約10分歩くと、目的の単伝庵に着く。静かな住宅地の中にある寺院だが、道沿いに寺名よりも大きく「らくがき寺」の文字が掲げられているので、すぐに分かる。

ちなみに、この目印があるのは北門で、もうひとつ正門もある。パンフレットによると単伝庵は江戸時代初期に創建された臨済宗妙心寺派の寺院。地元の人々の努力によって建てられたお堂だから、力を貸してくれたみんなの願いがかなうよう、大黒様に願い事をよく見てもらおう!ということで、大黒様が納められている大黒堂の内側の白壁に、願いを書き込むようにしたそうだ。

静かな住宅地に忽然と現れる手書きの「らくがく寺」の看板を掲げた北門

そして現在も、訪れた参拝者が境内の大黒堂の白壁に自由に願い事を書いてもいいとされているため、「らくがき寺」の愛称で呼ばれるようになったという。ただし、指定の場所だけとなっており、お寺のどこに書いてもいいというわけでない。そして毎年大晦日(おおみそか)になると、白壁は塗り替えられる。

らくがきすると開運する!?

単伝庵の起源は今から約200年前。京都の「妙心寺(みょうしんじ)」の単伝和尚が人々を不慮の災難から救う目的で、八幡の地に元々あった荒れ寺にけが除け・厄除けの救苦観音を安置し、再建したのが始まりだ。

大黒堂に納められている「走り大黒天」は、南北朝時代に楠木正成(くすのきまさしげ)が、近隣にある石清水八幡宮の改修の際に武運長久を祈願して寄進した楠木の株の残りから刻まれたもので、参拝して願いを書くと開運すると言われている。こうした由来からか、壁に書かれている願いも商売繁盛や試験合格などの願いが多い。

実際、ここに願いを書いたあと、念願だった大学に合格したという人もいれば、彼女ができたという声も聞いたことがある。ご利益を信じて本人もそれ相応の努力をしたから、大黒様も願いを聞きいれてくださったに違いない。

「走り大黒」が納められている大黒堂

ルールを守ってらくがきを!

願いを書きたい人は、祈願料100円を払ったのち、用意されているマジックで大黒堂内の白壁に書くことになっている。ただし、落書きできるのは白壁部分のみ。こじんまりしたお堂内の壁なので、スペースはさほど広くないが、毎年年末には塗り替えられので、まっさらな壁に願いを書きたいなら年明けが狙い目だ。

ちなみに、文字がはみ出さないように型が置かれているので、それをキチンと守って書かなくてはいけない。ルールを破るとせっかく願っても無駄になるかも……。

大黒堂の内側は白壁になっていて、そこに願いごとを書く

願いは色々だが書き方は決まっている。ただし中には掟を破って大きな文字も!

京都と大阪の境界に位置している八幡市は、淀川や木津川が流れていて、TVや映画の時代劇によく登場する“流れ橋”の「上津屋橋」がある歴史深い街でもある。どこかのんびりとした空気が流れる八幡市の街の見学も兼ねて、単伝庵を訪ねるのがおすすめだ。ただし平日は事前予約が必要なので要注意!

●information
八幡市観光協会