大塚祐介氏

ビジネスマンなら、新しい取引先の経営内容が気になります。もしも転職を考えているのなら、候補企業の安全性や将来性に着目するのは当然です。でも、どうやって経営内容を見たり、判断すればいいんでしょうか? そこで公認会計士で税理士でもある大塚祐介さんに、会社の経営内容を読み解く基本技術を指南してもらいました。

ホームページにEDINET、インターネットを活用しよう

――会社の経営内容を判断するには、やはり財務諸表を読む技術とか専門的な知識が必要になるんでしょうか?

「財務諸表を分析することだけが、会社の経営内容を判断する方法ではありません。一般のビジネスマンの方なら、まずは調べたい会社のホームページにアクセスしてみることをお薦めしますね」

――経営状態を判断する材料がホームページに載っているんですか?

「はい。ホームページには経営トップのメッセージや経営戦略、中期計画、ヴィジョンといったものが紹介されていますから、それらを丹念に読んでいけばおおよその感触はつかめると思います。最近ではIRを積極的に行う企業も増えていますので、そちらも注目して見てほしいですね」

IR(Investor Relations)とは、企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供していく活動全般を指します。決算短信などだけでなく、リスク情報などを開示している会社もあるそうなので、大いに参考になりそうです。

「EDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)というサイトの活用方法もお教えしましょう。EDINETとは『金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム』のことで、すべての上場企業の有価証券報告書が開示されています。ここで調べたい会社の報告書を検索します。

報告書が画面に出ましたら、『継続企業の前提に関する事項』という箇所に注目してください。

『継続企業の前提に関する事項』というのは、経営に不安がある会社の場合、監査法人が会社存続のリスク要因を注記という形で投資家向けに情報開示するもの。不安要素がなければ『当該事項はありません』と記されますが、安全性に不安のある場合は例えば『次の社債の償還が難しい』とか具体的に注記されるんです」

成長性は営業収入、経常利益の"経年推移"に着目

――注記で危ない会社かどうか分かるわけですね。

「そうです。特に注記がなく安全性を確認できたなら、次は報告書のなかの損益計算書を見てみましょう。ポイントは営業収入と経常利益の経年推移です。この2つが伸びているかどうかを見ることが、成長性を判断する簡単な方法です。

営業収入や経常利益に限らず、経年推移というのはとても大切な要素なので、企業のホームページなどで、従業員の数や子会社数の経年推移も調べるのも大切です。それらが増えていれば拡大志向、成長への意欲などがわかるのです。

転職を考えるなら、安全性は最低限のことで、将来性や成長性という観点から会社を見ることが大切だと思うんです。その会社に自分の将来を預けられるかどうかは、会社の将来性、成長性にかかっているわけですからね」

貸借対照表の数字は同業他社と比較してみると良い

「EDINETの有価証券報告書には貸借対照表も開示されています。この貸借対照表で会社の安全性を図る手法は、自己資本比率(純資産÷資産)、流動比率(流動資産÷流動負債)、当座比率(当座資産÷流動負債)などがありますが、何%以上だったら安心、といった数値は業種によって異なり、一概には言えません。

ではどうすれば良いのかというと、同業他社と比較してみるのをオススメします。他社より高いか低いかで、会社の経営内容を相対比較してみると、会計の専門知識がなくとも、おおよその判断はできるのではないでしょうか」

――ところで、公認会計士や税理士の資格は企業社会の中では有力な武器になるんでしょうか?

「経営コンサルティングの会社や監査法人などの第一線で働くには必須に近い資格ですが、一般の会社ならどうなんでしょう。資格もあるにはこしたことがないでしょうが、やはり総合的な人間力の方が大切と思いますよ。でも、いま申し上げたくらいの企業を見る知識は持っておきたいものですね」

profile
大塚祐介(おおつかゆうすけ)
大塚公認会計士・税理士事務所代表。税理士、公認会計士。大手監査法人、経営戦略コンサルティング会社勤務を経て現職。