絶食で人気者になったダイオウグソクムシ(写真提供:鳥羽水族館)

今年の1月で絶食丸4年が確認された、鳥羽水族館のダイオウグソクムシ。ダイエットすらできない私たち人間と違って、なぜ、何にも食べずに生き続けることができるの? そこのところ教えてほしいな、ダイオウグソクムシくん。

……というわけにもいかないので、飼育係の森滝丈也さんに、この神秘の深海生物の絶食の謎を根掘り葉掘り聞いてみました。

ごちそうに見向きもせず

――ダイオウグソクムシは今年1月に絶食丸4年が確認されて話題になりましたが、まだ絶食を続けているんでしょうか?

「はい、2月も3月も食べてくれませんでした(苦笑)。絶食記録を4年2カ月とさらに伸ばしたことになりますね。鳥羽水族館では、月に1回の給餌で、3月はマイワシ、メヒカリ、ニギスの3種類を与えたんですけど、見向きもしてくれませんでした」

――好き嫌いがあって「マイワシなんか食えるか!」とか、すねているわけじゃないですよね。

「最後の食事が2009年(平成21年)1月2日のことで、このとき食べたのはアジでした。その後、アジ、イカ、エビなどを与えていますが食べてくれません。長期絶食のダイオウグソクムシは、水族館で飼育している7個体のうちの個体番号No.1。ほかの個体もなかなか食べないんですが、たまには食べる。餌の問題じゃないと思います」

――何か食べないと生きていけないと思うのですが……。

「なぜ食べないのか、私にも正直わかりません。ほかの水族館に尋ねたり、文献や研究資料に当たったりしていますが、回答もヒントも見当たりません。やはり、深海という環境に適応して、あまり食べずに生きていける生命システムを獲得した、と考えるのが一番自然なんだと思います」

"海の掃除屋"と呼ばれる食いしん坊のイメージなのに

ダイオウグソクムシは、ダンゴムシやフナムシと同じ仲間(節足動物門甲殻網等脚目スナホリムシ科)で、等脚目の中で世界最大。7対の脚、尾部にとげを持ち、固い甲羅で外敵から身を守っています。メキシコ湾や西大西洋の水深200~1,000mの深海に生息し、落下してくる魚の死骸などを食べているとか。"海の掃除屋"とも呼ばれているそうです。

――深海の食糧事情はあまり良くないということなんですかね。

「その点もあまりよくわかっていません。ただ、個体番号No.1の絶食4年以上というのは、いくらなんでも…と思うわけでして。いろいろと自分なりに考えてみて、水圧の違いという環境変化が影響しているかもと推論したりしています。水族館の水槽は、水圧だけは深海のようにはできませんから。

また、脱皮、性成熟の過程の生理的変化などが関連しているのもしれません。個体番号No.1は、うちの水族館に来てからまだ脱皮してないんです。性成熟もまだ。雄なので、性成熟すると腹側に交尾針というのができるんですが、まだそれがないんです」

ちなみに、ダイオウグソクムシの体長は20~45cmほど。メキシコ湾で捕獲されたNo.1くんは入館時の体長が29cm、体重1,040gだったそうです。けっこう大きい!

――その大きな体が、絶食で痩せたり小さくなったりするんですか?

「体は甲殻に覆われていますから、痩せたかどうかわかりませんね。ただ、これは別の死んだ個体を解剖してわかったことなんですが、ダイオウグソクムシには中腸腺という人間の肝臓に当たるような器官があって、ここでエネルギーを蓄えています。代謝が低く、この蓄積エネルギーで生きているんでしょうね。

とはいえ、早く餌を食べてほしいです。給餌の時は、祈る気持ちで餌を水槽に入れるんですけどね。食べるときは、結構迫力があって、においに反応して寄って来ては、50gのアジ1尾を30分ほどで食べ尽したりするんですよ」

ところで、人間の絶食記録って……?

絶食記録で一躍有名になったダイオウグソクムシに刺激されて、いろいろな生物の絶食記録を調べてみました。プロテウスという両生類は、6年の絶食生存記録があるそうです。また、マダニが18年絶食したという記録も。いやはや、生命の神秘ってすごいです!

ちなみに私たち人間ですが、断食ギネス記録は肥満症患者の382日の絶食だとか。人間もけっこう長く絶食できるんですね。

取材協力・写真提供:鳥羽水族館

(OFFICE-SANGA 日下部商店)