猫だって「お手」ができるんです!

猫は自由気ままな生き物なので、なかなか思うように行動してくれません。犬のようにお手やお座りを覚えてくれたらいいのに……と、愛猫家なら一度は思うのでは? そこで今回は、猫にお手を覚えさせる方法をキャット・インストラクターの坂崎清歌さんに教えていただきました。

「音」で行動を覚えてもらう

――猫に「お手」といっても、ソッポを向かれてしまいます。どうすれば覚えてくれますか?

「クリッカーを使ってトレーニングをすれば、猫も『お手』ができるようになりますよ。クリッカーとは、犬のしつけ等に用いる手のひらサイズの道具で、『カチッ』という音がします。

この音とおやつを結びつけることからトレーニングをスタートしましょう。猫がこちらの望む行動をしたときにクリッカーを鳴らすことで、猫にわかりやすく正解を教えることができます」

――専門の道具は高そうですね……。

「そんなことありませんよ。クリッカーは500円前後で購入できます。無機質な音が鳴るものなら缶をたたいたりしてもいいのですが、あまり大きな音を立てると猫が驚いてしまうので注意してくださいね」

――音を出すのに、手をたたくのではダメですか?

「拍手は毎回同じ音ではないので、猫が混乱するかもしれませんね。それに『お手』や『ハイタッチ』などは、手を使いますから片手は空けておかないと(笑)。

何を使って音を出しても構わないのですが、毎回同じ大きさ、同じ音質の音が鳴るものでないとトレーニングはできませんね」

指先に鼻をつけることからスタート

――具体的には、どのようにトレーニングをすればいいのでしょうか?

「まずは、猫に聞こえるようにクリッカーを鳴らし、おやつをあげます。音が大き過ぎたり、顔の前で鳴らすと怖がることもあるので注意してください。ハンカチなどに包んで音を小さくして鳴らすといいですよ。この作業を何度か繰り返してください。

おやつは猫の大好物や、いつもよりランクの高いものをあげましょう。こうすることにより、『カチッ』という音がしたらおやつがもらえることを猫に覚えてもらいます。

次に、棒を用意してください。猫は棒状のものを差し出されると鼻をつけることが多いです。その習性を利用してトレーニングします。

棒を近づけて、鼻をつけてくれたらすぐにクリッカーを鳴らしましょう。クリッカーを鳴らしたら、必ずおやつをあげてください。

最初は棒の先におやつのニオイをつけて、鼻をつけたらクリッカーを鳴らすといいでしょう。こうすることにより、猫は『棒に鼻をつければおやつがもらえる』ということを覚えてくれるのです。

これができるようになると、棒で行き先を指示することができます。慣れてくると、指先でも応用が可能です。指で誘導してひざの上に載せることもできますし、床の上をゴロンと転がるかわいらしい姿も見られますよ」

指で誘導しながらゴロ~ン♪

――おやつが先ではダメですか? ついあげたくなりそう。

「おやつを先にあげてしまうと、猫は何もしなくてもおやつがもらえると思ってしまい、行動を覚えてくれません。また、クリッカーを鳴らしたのにおやつをあげないというのはルール違反。たとえ間違えて鳴らしてしまったとしても、おやつは必ずあげましょう。

指示どおりに行動したのにおやつをあげないという『だまし』も厳禁。猫が頑張ってくれたことに対して『ありがとう』の気持ちでおやつをあげてほしいですね。

トレーニングを重ねていくと、おやつを与える機会が増えるものです。普段の食事からトレーニング分のおやつを差し引くなど工夫をして、おやつの与えすぎに注意してくださいね」

お手以外もマスターできる!

――基本を教わったところで、「お手」のトレーニングについて教えてください。

「『棒に鼻をつける』と同じ手順で、今度は棒に前脚で触れることを教えてみましょう。棒を猫の前に差し出し、前脚が触れたらクリッカーを鳴らします。猫が棒に触ってくるようになったら、その棒の先で自分自身の手のひらを指し、猫の前脚が棒越しに手のひらに触るようにしていきます。

手のひらに前脚が触れた瞬間にクリックすることで、こちらの望んでいる行動が手のひらに触れることだと猫に教えることができます。何度か繰り返すうちに棒をタイミングよく引っ込めましょう。

棒を使わずに手のひらに前脚を乗せられるようになったら『お手』というキュー(=行動の合図)を付けます。誤解されがちですが、このキューは行動ができるようになってから。はじめは、猫が手のひらに前脚を乗せた瞬間に『お手』と言いましょう。

だんだんと猫の行動を先取りして『お手』とキューをかぶせていくことで、『お手』というキューを聞いたら『お手』をするようになります。

トレーニング次第でどんな猫も「お手」ができるように!

同じ要領で『ハイタッチ』を教えることもできますよ。私の経験からいうと、多くの猫にとっては『ハイタッチ』の方が簡単なようです。もしも『お手』にこだわらないのであれば、先に『ハイタッチ』を教えてみてもいいでしょう。

「ハイタッチ」のトレーニングがオススメ

トレーニングのやり方と言うのは、動画を見た方がわかりやすいですね。YouTubeで「How To Cat Clicker Training」という動画を公開していますので、参考にしていただきたいと思います」

――簡単なトレーニングでお手やハイタッチができるようになるのですね。それだけでもすごいのですが、ほかの行動を教えることはできますか?

「クリッカートレーニングをした猫は、トレーニングに慣れてくるといろいろな行動ができるようになります。例えば、棒や指先で行き先を指示することで、キャットタワーから棚の上までのロングジャンプや、自分の足の上を飛び越えさせることも可能です。

ハイタッチの応用編としては、真剣白刃どりもできるようになりますよ。猫の顔の前に手を刀のように振り下ろすと、猫が両手(前足)でキャッチするものです。いっしょに遊びながら、いろんな行動を覚えてもらうといいでしょう」

――猫も犬のようにさまざまな芸ができるとは驚きです。

「このトレーニングは、芸を教えるためのものだけではありません。特に室内飼いの場合は生活に刺激が少なくなるものですが、クリッカートレーニングを取り入れれば、楽しみながら刺激を与えることができます。

猫が『自ら行動することで得たおやつ』は、猫にとって『狩りの成功』の疑似体験にもなります。おもちゃで遊ぶことだけが『猫の遊び』ではないことを皆さんにぜひ知っていただきたいですね。

また、クリッカートレーニングを基礎とするさまざまなトレーニングをすることで、多くの猫がストレスに感じる、爪切り、歯磨き、動物病院の通院などのストレスを軽減することが可能です。

「ハーイ」と片手をあげると招き猫のよう

それに、猫が好きなおやつを把握することで、元気がないときにはそれを与えて反応を見ることができます。クリッカートレーニングでは、猫とのコミュニケーションを楽しみながら、健康管理をすることもできるのです」

猫のかわいい姿が見られる上に、コミュニケーションを深められて、さらに健康管理までできるとは! 愛猫ともっと仲良くなりたいと思う方は、試してみてはいかがでしょうか。

■坂崎清歌
愛玩動物飼養管理士、キャット・インストラクター(D.I.N.G.O.認定)。動物の行動分析学をもとに、猫のトレーニングを行う。
Happy Cat

(OFFICE-SANGA 丸部りぃ)