博多では有名な「クタクタ麺」だが全国での知名度はまだまだ低い

地元っ子に「クタクタ麺」と呼ばれる伝統的な博多のうどん。コシがなく、歯ざわりがクタクタだということに由来しているらしい。しかし、味は他のうどんにはない独特の深みをもっているので、一度食べたらやみつきになること必至だ。

昭和ただよう店で出合ったクタクタ麺

呉服町の人気店「みやけうどん」のインパクトある大釜がこれ

JR博多駅を北に徒歩20分。福岡市内でも1、2位を争う大きな規模の呉服町の交差点をひとつ裏通りに入ると、そこには下町の匂いが充満している。「クタクタ麺」の博多のうどんと言えばココ!とその屋号が必ず挙げられる「みやけうどん」をまずはご紹介したい。

昭和にタイムスリップしたかのような店内の様子に気を取られていると、初めての客だろうが常連だろうが、この店が開店した昭和29年(1954)に生まれたという2代目のご主人が、客が席に着くより早く「何にしまっショ」と注文を聞きに来る。

この尋常ならざる素早さは、シンプルなメニュー展開にも理由があるのだろう。メニュー構成がうどん・そば各300円。トッピングがエビ天、ゴボウ天、きつね、たまご、そして博多名物の丸天が各80円。いなりは1個50円。これで全部だ。あるいは、食に関して気短な博多っ子に合わせての流儀なのかもしれない。

ご主人の速攻メニューうかがいに、こちらも負けじと「丸天うどんとおイナリさん2個っ!」と素早く注文を返す。するとものの1分もかからずに、厨房(ちゅうぼう)の真ん中の巨大釜に添えられたトックリから、トクトクと黄金色のスメ(博多ではツユをこう呼ぶのだ!)がドンブリに満たされ、さっと丸天うどんが出てくる。

この博多ならではの「丸天」というトッピング、要するにさつま揚げの丸いヤツだ。それがドカンとうどんの上に乗っているのである。

丸天うどんとオイナリさん2つ。定番メニューはいたってシンプルだ

問題の麺はというと、幅が1センチはあろうかという太さ。歯を通すとコシが無く、やはりクタクタしている。ぽろりと口の中でちぎれることも多い。ところがこのクタクタ麺に、昆布・かつお節・うるめ・さば節・あご(トビウオ)でダシをとったツユがしっかりとなじみ、深いうま味が舌に迫ってくるのだ。

クタクタ麺についてご主人に聞いてみると、「菓子のごとあるテ、よう言わるう。(菓子のようだとよく言われる)」との答えが返ってきた。

実は江戸時代の初めまで、うどん屋は、餅やまんじゅうを売る菓子屋でもあったのだ。そしてその頃のうどんの麺は現在のような細長い形ではなく、餅やまんじゅうのような形のものだったと言われている。

●information
みやけうどん
福岡市博多区上呉服町10-24

角にあるうどん屋だから「かろのうろん」

「かろのうろん」とは伝統的な博多弁で「角のうどん」という意味だ

「博多のうどんと言えばココだ!」というもうひとつの店舗をご紹介しよう。川端通りという古くからの商店街の角にある「かろのうろん」だ。「うろん」? そうとも。昔ながらの博多弁では、「角のうどん」が「かろのうろん」となまるのである。

大人気の「ごぼ天うどん」は500円。かきあげ風のゴボウの天ぷらがドン!と乗る

こちらの店のツユは甘め。麺にはやはりコシがなく、典型的なクタクタ麺である。スープは昆布のだしがよくきいた上品な味だ。麺はやや平打ちで、つるつるもちっとしている。ゴボウ天は、薄い短冊切りにしたゴボウが、かき揚げ風にまとまっている。まとまっているのは博多では珍しいが、厚みも薄すぎず、ゴボウの歯ごたえと風味がおいしい。

ラーメンで有名な博多だが、こういった老舗うどん屋で博多伝統の「クタクタ麺」を楽しむのも、通な楽しみのひとつかもしれない。

●information
かろのうろん
福岡市博多区上川端町2-1