AppleがMac製品ラインでARMプロセッサの採用に動いているという噂が最近になって加速している。複数の報道によれば、Appleは現在Mac製品ラインにプロセッサを供給しているIntelに対して消費電力削減について厳しい要求を突きつけており、これがIntelにとってのプレッシャーやウルトラブック構想の発端の1つになっているという。一方、Apple側ではARM採用の可能性をほのめかしており、一部製品ラインのARMへの切り替えの可能性が示唆されている。

Intelはウルトラブック計画でTDP低減を目指す

Intelのウルトラブック計画は、今年6月に台湾で開催されたComputex Taipei 2011でPCクライアント部門担当VPのMooly Eden氏によって明らかにされた。その後同社は8月上旬に、Intel Capitalがウルトラブック実現に向けて3億ドルの投資を行うことを発表している。ウルトラブックでは製品の厚さやプロセッサの消費電力、価格帯などの目標値が示されているが、本格的な実現には2012年から2013年にかけて登場する「Ivy Bridge」や「Haswell」といったプロセッサ世代で段階的に目標値を上げていくことが示唆されている。とくに、次々世代のHaswellではプロセッサのSoC (System on Chip)化が進み、TDPで15W以下程度が一般的なノートPC用途での平均値になるという。つまり、Haswell世代のプロセッサがウルトラブック時代の1つの到達点になる。

一方、現在AppleがiOSデバイスで採用しているARMベースのA5プロセッサのTDPは0.5Wだ。パフォーマンスや用途が大きく異なるとはいえ、Intelのx86プロセッサのTDPとは桁が1つも2つも異なる。このあたりが、IntelとAppleの間での駆け引き材料になっているとみられる。

ウルトラブック担当ディレクターの発言がきっかけ

今回、Mac製品でのARMプロセッサ採用の噂が盛り上がったのは、米Intelのウルトラブック部門担当ディレクターGreg Welch氏の発言に端を発する。

Welch氏はこれまで、少なくともメディアとのインタビューで2回ほどAppleとARMプロセッサについてコメントしている。1回はIntel Capitalによる3億ドルの投資が発表された際の発言で、Wall Street Journalの8月10日(現地時間)付けのレポートによれば、同氏によればAppleはIntelに対してプロセッサの大幅な消費電力削減を進めるよう求めており、これが実現できなければIntelプロセッサの採用を止めることまで示唆していたという。これがウルトラブック構想の発端の1つだというのが同氏の説明だ。

そして今回話題が大きくなったきっかけが、CNETによるWelch氏へのインタビューだ。22日に掲載されたレポートによれば、AppleがARM採用に向かっているという話があることを同氏も認めており、引き続きIntelのx86プロセッサを採用してもらうべく、技術開発を進めているのがプロジェクトの現状だという。Haswellが登場するまでの1年半から2年ほどの間で、どれだけARMのTDPに対抗できる製品を開発できるかが試されていることになる。

プラットフォーム移行には要検討事項が山積

とはいえ、x86プロセッサからARMへの移行は大きな作業だ。TDPのことを考慮してMacBook Airのようなモバイルノートの製品ラインに採用することはともかくとして、上位のMacBook ProやMac Proといった製品ではパフォーマンス的な問題があるし、それらの製品ではバッテリ駆動時間はあまり重視されない。アプリケーションの引き継ぎやベースとなるOSをどうするのかまで含め、いろいろ考えなければならない事項は多い。ある意味で、PowerPCからx86プロセッサへと移行したとき以上の大きな決断ということになるかもしれない。

なお、Appleが2013年をめどにノートPC製品でARMプロセッサを採用するという噂は以前より囁かれているが、一方でIntelが2年程度のリリースをめどにARM SoCの開発に乗り出しているという話も出ている(後藤弘茂氏のレポートなど)。Haswell世代をターゲットにIntel自身が代替となるARMプロセッサをリリースする可能性もあるということだ。