新潟県の苗場スキー場にて開催されている『FUJI ROCK FESTIVAL'08』のグリーンステージに25日、アイルランドの伝説的な人気バンド「My Bloody Valentine」が登場した。

17年振りに観客の前に姿を現したMy Bloody Valentine

My Bloody Valentineは1984年にデビューしたアイルランドのバンド。1991年までの活動期間中にリリースした2枚のアルバム『Isn't Anything』と『Loveless』で、伝説的存在となった。厚みのある轟音ノイズのギターサウンドで、繊細で甘美なメロディを奏でるという、これまでのギターロックにはない新しいスタイルを確立させた。

また、My Bloody Valentineは大轟音を奏でながらも、本人たちは手元以外ほとんど身体を動かさず、それまでのアーティストたちのように観客にアピールすることもなかった。ただひたすら足元を見ながら演奏するMy Bloody Valentineのスタイルは「シューゲイザー(靴を見る人)」と呼ばれ、My Bloody Valentineのような音楽自体がシューゲイザー系と呼ばれる、ギターロックの一大ジャンルとして認知されるようになった。RIDE、Oasis、Primal Scream、Dinosaur.jr、日本のフリッパーズ・ギターやスーパーカーなど、多くのバンドがMy Bloody Valentineからの影響や、彼らへのリスペクトを明言している。

そんな生きる伝説がフジロック初日の大トリとして登場する……グリーンステージは未曾有の期待感に包まれていた。激しい雨も上がり、空には星も見える。ステージ前には世代を問わず、この日最大数と思われる観客が押し寄せていた。開始10分前から、断続的に手拍子が始まり、「ケヴィン~」というMy Bloody Valentineのフロントマン、ケヴィン・シールズへの声援が飛び交う。そして、ついにMy Bloody Valentineが轟音のSEの中、ステージへと登場した。

ギター、ボーカル担当のケヴィン・シールズ。近年はPrimal Screamのアルバムやライブにギタリストとして参加していた

明確な解散宣言こそなかったものの、活動を停止して17年が過ぎた。当時とはやや風貌が変わったMy Bloody Valentineの4人。ビリンダ・ブッチャー(ギター、ボーカル)が「こんにちは」と日本語で挨拶して、ライブはスタートした。

ビリンダ・ブッチャー

伝説が現実になった瞬間。ビリンダ・ブッチャーの儚い歌声は変化なし

1曲目の『only shallow』から噂通りの轟音サウンドと甘いメロディーが全開。ケヴィン とビリンダのか細い男女ツインボーカルが、轟音ギターに溶け込み、苗場の夜空に響き渡る。メンバーのバックに映し出されるサイケデリックな映像と共に、不思議な空間を作り出していた。

2曲目の『when you sleep』は彼らには珍しいノリの良いロックナンバー。ここでは、後方でも激しく踊りだす観客が続出した。

この後も『Loomer』『soon』などこれまでアルバムでしか聴く事のできなかった名曲が、アルバム以上に厚みのある大轟音で次々と披露される。演奏中のメンバーは、ほとんど身体を動かすこともなく、伝説通りのシューゲイザースタイルを披露。途中、一度だけケビンが観客に「ハイ」と短く声をかけ、淡々と「熱く激しい」音を観客に届け続けた。

圧感だったのがステージ終盤だ。ケビンたちは、ただひたすらにギターをかき鳴らし、10分以上にわたり轟音で同じ旋律を撒き散らし続けた。最初は興奮していた観客も、次第に疲れをみせ始める。それが、不思議な心地よさに感じられ出した頃にライブは終了した。

My Bloody Valentineは伝説通りに、激しい轟音の果てに甘美な楽園を見せてくれた。

撮影:石井健