これまで人文書や専門書を世に送り続けてきた亜紀書房が、コンテンツサイト「Fan+(以下、ファンプラス)」で紙の本と動画コンテンツがセットになった新しいカタチの書籍を展開し続けている。紙と動画という2つのメディアから生まれる相乗効果には、どのようなものがあるのだろうか、担当するZERO事業部編集長・松戸さち子氏にお話を伺った。

紙の本と動画コンテンツがセットになった新しいカタチの書籍を展開する、亜紀書房ZERO事業部 松戸さち子編集長

「才能ある人々」の作品を最大限に読者に伝える

編集者になって30年ですが、実は、書籍を映像で発信することは、以前から行っていました。私は「著者=才能ある人々」と定義しているのですが、「才能ある人々の才能を発信する楽しさ=編集者の醍醐味」であり、まさに腕の見せどころであると考えています。メディアについても、著者の作品をアウトプットする方法は、印刷のみではもったいないですよね。紙、映像などそれぞれのメリットを活かすことで、著者が描き出す世界を、最大限に読者に伝えることができるのです。

ZERO事業部は、2011年3月に誕生しました。1を100に増やすより、0(ゼロ)を1にするほうが難しくて大変な作業です。それでもあえてそれに挑戦しようじゃないかと。ZERO事業部の名称にはそういった意味も込められています。ほぼファンプラスと同時にスタートしていますから、一緒に歩んできたといったイメージでしょうか。

ファンプラスの面白さは、制作ツールにもあります。編集者としては、つい作る「道具」に興味を持ってしまうのですが、そのなかで、NTTプライム・スクウェア(ファンプラス運営会社)が、提供するハイブリッドコンテンツ制作ツールは、とても魅力的でした。これは、ファンプラスにアップするための専用ソフトウエアなのですが、β版を試用したときに、マルチデバイスへの同期はもちろん、その使い勝手も含めて面白い! と感じ、コンテンツ提供を決定した経緯があります。

私自身は、ファンプラスが行っているサービスは、まだまだ進化の途中だと思っています。これはプラットホーム側の責任ではなく、スマートフォンなどデバイス自体のOSであったり、通信環境の問題であったりすることが多いでしょう。もちろん、日進月歩していますから進化することはあっても、退化することはないでしょう。今後、ますますスペックの高い作品がアウトプットできるようになっていくでしょうね。

次世代に残したい、著者の個性を味わう、楽しみ方は無限

私たちが『談志市場』を立ち上げた当初は、談志師匠はご存命でした。「談志の遺言」は、2011年の2月に撮影されたのですが、気管切開をされて声を失ったのが同年の翌月なので、本当に声を失う直前の映像なんです。日めくりで談志師匠の直筆の文字が出てくるのですが、最後にあの原稿をいただいたのが亡くなる2カ月前でした。最後はベッドの上で書いてくださったと聞いています。そのため、だんだん字が崩れていくのですが、亡くなる直前までこの仕事を続けてくださいました。

談志師匠は、「クラウドとは」「ファンプラスとは何か」なんて説明しなくても、「いろんな端末でどこからでも師匠の映像が見られるんです」って説明しただけで、「まあいいや、やるか」と快諾してくださいました。立川談志という天才は、落語家としてたぐいまれなる才能があるだけでなく、いろいろな意味ですごい人です。この素晴らしさを次の世代に伝えるには、動画だけでもダメ、活字も必要。でも、活字だけではダメ。音も動く映像も、そして写真もテキストも必要なのです。そうしたツールは、今、ファンプラスにしかないわけです。私は、100年後まで、談志師匠の素晴らしさを残したいと思っています。

談志師匠もそうだったのですが、近藤誠さん、信田さよ子さんなどZERO事業部で展開している著者は、あまりテレビには出ない方が多いのです。なぜかというと、本当のこと、本質的なことを話すので大衆向きではない部分があるからです。そういったオピニオンとして非常に価値の高い著者の作品は、有料コンテンツであるファンプラスに向いています。読者もお金を払う分だけ作品に向かう心構えが違うわけですよ。そういった方たちに手に取っていただけるのは、編集者としてうれしいですね。

ファンプラスでは、書籍単体の定価で動画付きを購入できる。放射線科医近藤誠さんの著書も発売している

あと、活字だけだったら、表現しきれないので候補に落ちてしまうような企画も、ファンプラスでは映像というツールもあるので、これまで諦めていた部分も表現できる面白さがあります。例えば、3月25日発売の『実験マニア』などもそうです。こうしたらこうなった! というのが映像で確認できますからね。内容はもちろん、著者自身の個性が豊かで映像を見ているだけで楽しめるような人たちばかりですから、紙と映像をあわせて相乗効果が期待される内容に編集しています。作品としては、動画と活字がシームレスであり、一体化させているつもりです。

マスを相手にすると、どうしても作品が凡庸化したり均質化したり、つまらないものになったり、とんがっているものが丸くなったりするわけです。ファンプラスは動画とテキストと、そして音声で伝えることができて、しかも容易にコピーできないクラウド環境下のパッケージメディアです。しかも読者は、きちんとお金を払ってものを見ようという心構えのある人たち。私はある意味、非常にまっとうなメディアだと思っているんですよ。

編集長おすすめの新刊

実験マニア
材料は100円ショップでそろうようなものばかり。「大気の力で空き缶をつぶす(たいした大気圧)」など30の実験を、山田暢司氏が実際に映像で紹介。親子だけでなく、大人の男性ファンが多いとか。3月25日よりファンプラスで販売されている。

著者・出演者/山田暢司
発売日/2013年3月25日
価格/1365円(税込)

会社の老化は止められない―未来を開くための組織不可逆論
1つの記事について「いいね!」が3000超え、1日の訪問者が1万8000人という細谷功氏の人気Web連載コラム待望の書籍化。「コンサルタント人生20年の集大成」と細谷氏本人が語るほど、鋭い切り口にて展開される革新的組織論。ビジネスマンはぜひ目を通したい。3月28日よりファンプラスにて先行発売!

著者・出演者/細谷功
発売日/2013年4月4日
価格/1575円(税込)

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