『戦場のメリークリスマス』『ニュー・シネマ・パラダイス』『ロード・オブ・ザ・リング』『英国王のスピーチ』など、数々の名作・ヒット作の予告編を手がけた相澤雅人さん。ここではその業界の巨匠に、映画予告編の制作現場について興味深いお話を伺った。

相澤雅人(あいざわ・まさと)さんプロフィール
1949年生まれ。「東北新社」を経て映画予告業界に転身。77年の角川映画『人間の証明』を皮切りに『地獄の黙示録』『戦場のメリークリスマス』『ラストエンペラー』等、従来の予告とはまったく違った新しいスタイルの予告を次々に生み出し、業界に旋風を巻き起こす。1989年に「仕事主義」を設立。『ニュー・シネマ・パラダイス』『ロード・オブ・ザ・リング』『戦場のピアニスト』など、名作話題作の予告編を多数手がけ、いまだ次世代クリエイターたちに大きな影響を与え続けている。近年はCMのナレーターとしても活躍中。

ディレクターがパソコンで予告編制作を行う時代に

-今の日本の予告編制作会社について教えてください。

プロダクションハウスは大小合わせて20社あるかないかです。大手でも20人くらいの所帯。演出(ディレクター)が10名位いて、あとはアシスタントの制作進行やCGなどを手がけるタイトルチームですね。また、ディレクター1人だけのワンマンカンパニーもいくつかあります。それは、ディレクター自身がほとんどの作業をするということと関係があるのかもしれません。

-では、予告編ディレクターの仕事とは?

コンテを考え、画を編集し、音楽の選定をし、コピータイトルやナレーション原稿を書き、タイトルをCGで作る。ときにはナレーターもこなす。一人何役ものマルチな才能が求められる仕事です。

-予告編の制作プロセスとは?

本編(完成された映画のこと)を試写室で見る。これが仕事のスタート。一番楽しいときです。次に宣伝部と打ち合わせです。テーマは何か、どう売るか、誰に売るかなどとコンセプトを固めていきます。

次にコンテ(予告編の構成案)です。どんな仕立ての予告にするか、いわば設計図を考えるのです。ここからは演出家1人の作業。イントロをどうする? 音楽はどれを使う? 芝居はどこがいい? メインコピーは何? グランドデザインができると、オフィスに1週間ほど缶詰になり、オフライン編集に取りかかります。この時間が一番大事なんですね。そして、一番苦しい時です。実際の編集素材を前にすると頭で考えていた設計図とはどんどん違ってくる。パソコンとにらめっこしながら、アイデアが浮かんでは消え浮かんでは消える。プレゼンの日が迫ってくる。画をつなぎながら、これで面白くなってるかと、とことん悩むのです。

眠る暇もなくようやくラフができ上がり、宣伝部のOKを取るとオンライン作業です。スタジオで高画質のHDで画を組み、CGタイトルやセリフタイトルをつける。これがHD編集。音の作業はダビング(DB)といいます。ダビングはナレーションを録音する、音楽やセリフ、効果音を画にあてる。そしてそれらをミックスする。ここまですべて、今はデジタル作業です。翌日、完成品の初号プリント(35ミリフィルムやDCP・デジタルシネマパッケージ)を試写室でチェックします。これでフィニッシュ。ほぼ1カ月で予告編ができ上がります。

本編をできるだけ見せないのが優れた予告編

映画の予告編は、いかに見せないかが大きなポイントと語る相澤雅人さん

-予告編を作る場合の、音楽の重要性について教えてください。

予告編の場合、画と音は切っても切れない関係です。画は音があって初めて生きるともいえます。だからどのシーンにどの音楽を使うか、とても重要なのです。音楽によっていくらでも印象も、時には意味も変わってしまいますから。生かすも殺すも音楽次第なのです。そのためには音楽を聞き分ける力が大切。つまり音のセンスを持っているか。音楽のセンスがない人はこの仕事には向いてないかもしれませんね。

-優れた予告編とはどういうものでしょうか?

矛盾するようですが、何も見せないことがベストです。できるだけ見せない予告。

それだから見たくなる。見せないことで、ますます見たくなる。見せずに、見せるですね。これが映画予告編の理想です。今の傾向はむしろその逆で、できるだけ語る、説明する。これでもかというくらいに。饒舌な作りで面白さを伝えようとしてますね、どれもが。

もう数十年前ですが、劇場で見たS・スピルバーグの『未知との遭遇』。夜の道を走る主観が延々と続く、そんなワンカットだけだったような映画予告編でした。だからこそ、その先を見たくなるのです。

-ところで、最近の「仕事主義」が手がけた予告編は?

『最強のふたり』『ヒミズ』『ジェーン・エア』。これから公開の作品ですと『ゼロ・ダーク・サーティ』『フライト』。両方ともアカデミー賞にノミネートされているクォリティの高い作品です。夏以降は『少年H』『スタートレック イントゥ・ダークネス』あたりです。

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