元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな六法は『憲法』です。

住んでいたマンションを退去したら、ちょっと高いルームクリーニング費用を請求されたので敷金返還請求の裁判を起こしました。相手は大家の代理人の東京都内の法人です。

今回は「少額訴訟」という、60万円以下の金額を請求する裁判で、1日で判決も出るので、とってもお手軽なインスタント裁判。ほとんどの方が、弁護士に依頼せずに自分で裁判を行いますので、費用も5,000円~とリーズナブル。その裁判中、ぼくは裁判官に頼んで被告に質問する時間を与えてもらいました。

大家さんへの尋問

被告への質問

ぼく「ルームクリーニングの内容について教えてください。誰が、どのくらいの時間、どのような清掃をしたのでしょうか?」
被告「うちの従業員が、時間にして半日くらいですかね。通常のルームクリーニングを行いました。壁、床、窓枠、収納棚など」
ぼく「掃除の内容について、口頭で報告を受けている? それとも紙ですか?」
被告「口頭です」
ぼく「部屋には収納棚なんてありませんが、本当に報告を受けていますか?」
被告「……」
ぼく「清掃時間についてお答えください。清掃担当の方は、いつ会社を出ていつ戻ってきたのでしょうか?」
被告「分かりません」
ぼく「報告書の作成などありますでしょうか?」
被告「ありません」
ぼく「どのくらいの時間清掃したのですか?」
被告「分かりません」

と、裁判に出廷している会社の退去担当は、清掃についてほとんど把握していません。

ぼく「請求された3万8,000円、この金額の根拠を教えてください」
被告「会社内の規定で、ワンルームは3万8,000円と決めています」
ぼく「部屋は入念に清掃し、かなり綺麗にして返しましたが?」
被告「部屋を綺麗にしても、汚く返しても金額は変わりません」
ぼく「3万8,000円はどのように決められた金額ですか?」
被告「作業に要する時間と使用する薬品で決めています」
ぼく「使用する薬品とは?」
被告「薬品名は分からないけれど、業務用のものです」
ぼく「つまり、清掃についての報告書もないし、所要時間も分からないし、金額の根拠としている薬品についても業務用の何かという程度しか分かっていないということですね?」
被告「はい」
ぼく「それでは、3万8,000円が妥当かどうかは判断できないと思うのですが、3万8,000円について、清掃の内容と比較してどのように考えておられますか?」
被告「妥当だと思っています」
ぼく「逆の立場だったらどうですか? 2畳の家に住んでいて、ルームクリーニング費用で3万8,000円を請求されたら?」
被告「……高いと思うかもしれません」
ぼく「ありがとうございました。ぼくからは以上です」

と、こんなやりとりをしました。

敷金について、第三者(裁判官)を交えて質問すれば、以上のようなことが分かります。大家さんは、ルームクリーニング費用について、根拠のない請求をしていて、賃借人は賃貸借契約に関する知識不足から、それを受け入れることが多い。ぼくらのやりとりを受けて、裁判官は、「どう? 質問してみて。和解する?」と、まだ和解を勧めてきます。和解にすると、訴訟費用を被告に負担してもらえないので、和解はしません。でも、裁判官はそのことを隠して、和解を勧めてきます。

和解を拒否すると、裁判官にルームクリーニング費用の希望金額を聞かれたので、5,000円と答えました。被告は、5,000円は嫌だが、判決が出るのも嫌なようです。一社員なので、事前に上司に言われた、2万円までなら下げてもいい、という妥協案を示すことしかできません。どうして、ぼくが2万円で容認すると考えたのでしょうか。上司も裁判にくればいいのに。次回は、いよいよ判決です。

執筆者プロフィール : さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら