会社員の場合、源泉徴収の形で給料から天引きされるため、あまり意識しないままに払っていることが多い税金。しかし、せっかく給料が増えても、「手取りが増えないのは何でだろう?」と手をこまねいているだけなのは、あまりにももったいない。税金の種類や仕組みを理解して、払うべきものは払って、後から慌てないように、また取り戻せるものは取り戻して、"お得生活"ができるように、ゼロから勉強しよう。


「経費」が認められている? サラリーマンの所得税

給料明細を見ると、税金が2種類差し引かれているのがわかる。ひとつが所得税、もうひとつが住民税。所得税が国税、地方税が住民税となる。

このうち、国税である所得税は6段階(平成27年からは7段階)の税率に分かれている(下「図表1」参照)。これはいわゆる「累進課税制度」といわれるもので、所得が高い分だけ税率も高くなっていく。

図表1

ただこの表を見て、年収500万円なら税率20%が適用されるから、100万円。そこから控除額を差し引いて100万円-42万7500円=57万2500円。これが支払う所得税だ、と思うのは早計だ。サラリーマンは年収から、控除と呼ばれる非課税枠を様々な形で認められている。それらの控除を差し引いた残りが「所得」となるので、「年収」と「所得」は違うということを覚えておいていただきたい。

それでは、年収500万円の人の所得を計算してみよう。

ところで、サラリーマンには経費が認められていない、と愚痴を言う人がいるが、それは間違いということをご存知だろうか? 実はサラリーマンには概算ではあるが、「給与所得控除」という形で一定経費を認められている(下「図表2」参照)。

図表2

年収500万円の場合、

  • 500万円×20%+54万円=154万円

が経費として認められているというわけだ。154万円の経費とは、意外と高いのではないだろうか。これを500万円から差し引くと、

  • 500万円-154万円=346万円

これが所得となる。

控除はこれだけではない。さらに、誰にでも認められている「基礎控除」38万円、既に給与天引きされている「社会保険料控除」(仮に70万円とする)も差し引いて、いわゆる「課税所得」が出る。

  • 346万円-(38万円+70万円)=238万円

この計算は独身の前提でやっているが、もし、専業主婦の妻がいれば、配偶者控除や特別配偶者控除が差し引かれるので、また課税所得は変わってくる。

ここで図表1に戻って見てみると、238万円は税率が10%となっている。計算式にあてはめると

  • 238万円×10%-9万7500円=14万500円

これが、支払うべき所得税となる。

年末調整でいったい何をしている?

この計算は毎月の給与やボーナスで都度計算されているので、サラリーマンの場合、毎月きちんと税金を納めていることになる。

ところで皆さんは、「年末調整」の用紙をもう会社に提出しただろうか? 年末調整とは、1年間の税金を確定させるための作業。毎月きちんと天引きされているのに、なぜこんな作業が必要なのだろうか? そこで会社が把握できない控除を計算して、もう一度税金を確定させる作業があるからだ。

控除の確認は、まず「配偶者控除」や「扶養控除」の有無。そのために、妻(夫)や子どもの年齢や収入について記入する用紙を提出している。

改正によりややこしくなった「保険料控除」

それ以外に多くの人が対象となっているのが、「保険料控除」。実はこの控除、昨年から少しややこしくなったのを皆さんお気付きだろうか? 保険料控除は、生命保険と損害保険が対象となっている。

損害保険については、自動車保険や傷害保険は対象ではなく、現在は地震保険だけが対象となっている。2007年に改正があって、地震保険料控除に変更されたが、現状一部経過措置で火災保険などが控除されている。ただ、これから損害保険に入る人は地震保険だけが保険料控除の対象(火災保険のみはNG)ということを覚えておこう。

そして私が「やっかい」と言っているのが、生命保険だ。2012年から改正になり、現在経過措置中なので、まず新生命保険料と旧生命保険料に分かれている。2012年1月1日以降に締結した保険契約は新生命保険料、2011年12月31日以前に締結した保険契約は旧生命保険料と呼ばれる。従来、生命保険料控除は死亡保険関連と個人年金関連に分かれており、それぞれ上限が支払い保険料の5万円分まで控除の対象となった。つまり、死亡保険と個人年金保険に加入してれば10万円の控除が受けられた。

それが改正されて、死亡保険4万円、医療保険(介護保険も)4万円、個人年金4万円でフルに控除を受けたとすると12万円の控除になることになった。実質、非課税枠が広がったわけだが、3種類の保険にみんなが入っているかというとそうでもないので、ここは人それぞれだ。

そして、図表3が皆さんに配られる年末調整の用紙に書かれた計算式だ。まず経過措置中ということがあり、過去控除額が5万円だった死亡と年金の保険料は、場合によっては控除を5万円まで受けられる。逆に医療保険に加入していても、2011年12月31日以前の契約だと控除対象とならない。

図表3

たとえば、2000年に加入した死亡保険と医療特約があり、昨年さらに終身医療保険に加入した人がいたら、死亡保険については旧保険料の対象となり、医療保険は新保険料の対象となり、表から見てわかるとおり、5万円+4万円で9万円の控除となる。

もし、もともとの死亡保険と医療特約のみだったら、控除は5万円のみだ。

控除がきくからと保険に入り直すのはナンセンスだが、保険の見直しをするときは、保険料控除の対象になる保険かならない保険かを、必ず保険会社に確認してから、加入したほうが節税上手といえるだろう。


次回は、また別の視点から、所得税の確定申告について解説しようと思います。

<著者プロフィール>

酒井 富士子

経済ジャーナリスト。(株)回遊舎代表取締役。 上智大学卒。日経ホーム出版社入社。 『日経ウーマン』『日経マネー』副編集長歴任後、リクルート入社。『あるじゃん』『赤すぐ』(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から経済ジャーナリストとして金融を中心に活動。近著に『0円からはじめるつもり貯金』『20代からはじめるお金をふやす100の常識』『職業訓練校 3倍まる得スキルアップ術』『ハローワーク 3倍まる得活用術』(株式会社秀和システム)など。