今回ご紹介する珍DVDは『ハンティング』です。

気軽な気持ちで宝探しゲームに参加した四人の若者たち。しかしそれは惨劇の序章に過ぎなかった。宝を追って廃屋にたどり着いた彼らは、順調に目指す場所へとたどり着き、難なく記録を更新。しかし喜びも束の間、突然すべての扉がロックされ、気が付いたときには各々が別の場所へと監禁されてしまっていた。GPSによって監視された中で、いま恐怖の「人間狩りゲーム」が始まった――。

ということで、"美味しい話には裏がある"という、この世界の鉄則を再確認させられる設定ですが、まず注目したいのはそのパッケージ。

画像がないのでこちらをご覧ください

……なんといいましょうか。

いい加減この手のホラーで『SAW』のパッケージをパク……いや、オマージュするのはやめたほうがいいのではないかと思うのですが、まあそこはいろいろと売らなければいけない事情があるのでしょうから措いといて、内容を見ていくことにしましょう。

メインキャラが複数いるホラーの場合、誰が最後まで生き延びるのかを予想するのも醍醐味のひとつ

メインキャラは男女二人ずつの四人。物語は彼らがGPSを利用した宝探しゲーム"ジオキャッシング"に参加するところから始まります。

そして欲をかいた結果、もっと恐ろしい命を賭けた脱出ゲームに参加することになるわけですが、ソリッドシチュエーションホラーのように一室に閉じ込められるというわけではなく、大きな一つの建物の中を脱出口を探してさまようという内容なので、雰囲気としては『SAW』よりも『CUBE』に近い感じですね。

机の上に置かれていたのは鎖につながれた片腕……ショッキング映像もバンバン出てくるので注意

しかし『CUBE』と違うのは、部屋に罠が仕掛けられているわけではなく、殺人鬼が同じ館の中にいてこちらを狙っているということ。

しかも彼らに与えられたGPSには、自分たち以外に殺人鬼の居場所も表示されるというありがた迷惑な機能が搭載されているため、常に"追いかけられているという恐怖"を味わうことになるのです。

――これだけ見るとなんだかごくありきたりなホラー映画のように思えますが、本作が他のホラーと一線を画しているのは、死亡フラグを普通にスルーする、という点。

ちなみに最初、男女別々の部屋に監禁されるのですが、狩りゲームが始まってすぐ部屋から出て普通に合流できたため、いったい何のために部屋を分けて監禁したのかは謎のままでした

たとえば、彼らを追いかけてくる殺人鬼は二人いて、一人はジェイソンをさらにでっかくしたような寡黙な大男、そしてもう一人は狡猾そうな顔でよく喋る小男なのですが、この大男の方に追われまくった挙句、仲間の一人であるアンドルーが「ここは俺に任せて先に行け!」と叫びながら、無理やり仲間をドアの向こうに追いやって自分は一人その場に残るという、わりとありがちなシーンがあります。

これはもう、ホラーでなくともほぼ100%死亡フラグであり、格闘音が止んでから仲間が恐る恐るドアを開いた向こうにはアンドルーがボロ雑巾のようになって横たわっていて然るべきなのですが、この『ハンティング』の場合、立っていたのはアンドルーで、倒れていたのは大男の方でしたから、そりゃ僕も思わず画面に向かって「見かけ倒しかよ!」ってツッコんでしまうというものですよね。

死亡フラグを平気でへし折る登場人物たち

……通常、ホラーの悪役って正体不明だったり、理不尽なパワーを持っていたりして、とにかく圧倒的な力でこちらを怖がらせてくるものだと思うのですが(やられてもやられても復活してくるというパターンの恐怖もありますが)、この大男、2メートルはある長身に手斧まで装備しといてこのざまとは……史上稀に見るヘタレっぷりに、むしろこいつはギャップ萌え路線でも狙っているのか? と思わず勘ぐってしまいます。

むしろやっかいなのは小男の方で、こいつはこれまでにも数々の監禁者を殺してきた紛れもない殺人鬼であり、殺した死体に向かって「ただ一緒にいたかっただけなんだ……ごめんよ」と泣きながら懺悔するというモノホンの異常者。というかこの映画、全編を通して残虐シーンはこの小男の担当であり、大男の方は最後まで空気でした(いちおうちょっとだけ見せ場もあることはあるんですが)。

飛び道具も使いこなす小男。立派なハンターです

……とはいうものの、この小男の方も別に何か超人的な力を持っているわけではなくて、単に武器を持っている分ちょっと有利であるというだけの普通の人なので、最後の方では主人公たちに武器を奪われて途端にピンチに陥ったりします。

殺人鬼たち、二人ともドジっ子すぎるだろ……。

最初は怖かったのですが……

――ありがちなホラー映画とは違って、狩る方と狩られる方が互角に戦うという、大方の予想を裏切る展開を見せた『ハンティング』。

いちおう言い訳しておきますと、実はこの展開、ラストに待ち受ける"あるシーン"のための伏線であり、最後までご覧になれば「ああ、なるほど!」を膝を打つことになるかと思うのですが、まあでもそんなことはどうでもよくて、とにかく本作を機に、殺人鬼萌え"という新たなホラー映画のジャンルが生まれることを期待して、今回は筆を置きたいと思います。

今回ぶった斬られていただいた愛すべき作品

『ハンティング』

キャスト:トニー・トッド『ファイナル・デッドコースター』/アダム・ブッシュ『レオン』/キャシー・ガーディナー『アントラージュ★俺たちのハリウッド』/アンドレア・モニエ『エリザベスタウン』

監督:ジョン・ランズ

トランスフォーマーより発売中


山田井ユウキ

レビューサイト「カフェオレ・ライター」主宰。サイトでのP.N.は「マルコ」。映画はもちろんマンガ、ゲーム、さらにはBL作品に至るまで幅広くレビュー記事を執筆、その独特な視点とテンポのよい文章で人気を博し、連日30.000以上のPVを誇る

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