とある小説を読みながら、しみじみ「これ、女が描いたらもっと面白くなっただろうに」と思った。ミステリとしてのデキはともかく、男キャラにはぜんぜん萌えないし、女キャラにはまったく共感しない。設定自体は流行り物を踏襲しているのだから、もしこれを女が描いたら、もっと絶大な人気を呼んだだろうに、残念。

「あー、わかるわかる」という女のキャラへの共感は大抵、女の作家からしか得られないのだ。だいたい男が描く女って、「無駄にスゲー元気がある」だけとか、「なんだかものすごく不可解な行動を取る」気まぐれちゃんとか、「いつでもプリプリ文句言ってるOL」とか、せいぜいそんなもんだ。なぜそうなのか、どうしてこうなったのか、という理由がない。「男には女はこう見えてるんだな」というのがわかるくらいだ。

魅力のある少女漫画は、まさにそこが違う。例えば『きみはペット』で、高学歴を理由に男から振られ、女に陰口を言われたスミレは思う。「わたしの持ってるものは、全部わたしが勝ち取ったものよ。それが無駄だったっていうの?」。

昔、自分がテニスに夢中になっていたころのこと。上達することでコンプレックスが少し解消されることとか、自分の弱さを見つめて精神を鍛えることが勝利につながる苦しさとか(ちなみに上達と勝利はまったく同意ではない)、やればやるほどスポーツの奥深さを知って「もっとその世界を知りたい」と思うことが、テニスに打ち込むモチベーションだったのだが、知り合いの男どもには「負けず嫌い」のひと言で済まされたむなしさを思い出す。

また、スミレの親友、気が強くて物怖じしないユリちゃんのことをスミレはこう言う。「(ユリちゃんが)人一倍疑り深いのは、純粋で信じやすいから。キツい言葉で武装するのは、傷つきやすいから」

男性の描く「単に元気いっぱいの女キャラ」に、こんな配慮はない。超大人気ラノベを読みながら、「まさに男性作家の描くキャラだな」と心底うんざりしたものだ。

支持を得る少女漫画には、「そうそう! そうなんだよ!」と女が涙を出すくらい欲しい言葉が、ギッシリ描かれているのだ。それらが男から得られるのなら、少女漫画なんかいらないのに。

しかし、少女漫画になにやら嫌悪感を抱いている男は多そうだ。「恋愛の話ばっかりなんでしょ?」「どうせ都合のいい話ばっかりでしょ?」などというのは、よく聞く感想だ。だいたいこういうことは、少女漫画を読んだことのない輩が言う。

少女漫画の主人公には、2種類ある。
1. 自立心がなく男に面倒見てもらうバカ女
2. 自立している女
たった2種類だ。男が言う「恋愛の話ばっかりで都合のいい話ばっかり」な少女漫画は、1の自立心のないバカ女の少女漫画が当てはまる。

2の自立している女の話というのは、今まで取り上げてきた作品の中から言えば、『ベルサイユのばら』『はいからさんが通る』『砂の城』『ヨコハマ物語』『リアル・クローズ』なんかがそうだ。女が自立していると、そこには間違いなく困難と成長が描かれるので、明確な目標は設定されない(または明言されない)ものの、「目標、攻略、達成」の少年漫画に近い構成であるため、男に勧めやすい。

作家で言えば、池田理代子、大和和紀、一条ゆかり、山岸凉子、安野モヨコ、槇村さとる、くらもちふさこ(敬称略)などの大作家たちは、やはりくだらない女は描かない模様である。

ゆるゆる、気の向くままに漫画をチョイスしてきたので、まだまだ取り上げたかった作品はたくさんあるし、これから発見される考察もたくさんあっただろう。ここでこの連載が終了してしまうのは、非常に心残りではあるけれど、いつか必ず続きを書きたいと思う。それまではひとまず、Twitterでお仕事情報を更新していく予定なので、そちらで情報を追っていただけると嬉しい。

それでは、長い間のご愛読、ありがとうございました。