昔、友人が彼氏から突然こんなことを言われたそうだ。「僕はべつに、君の胸が大きいからって付き合ってるわけじゃないんだ!」。一応、口では否定してるけど、わざわざ口に出して言われたら「そうなのか!」って感じ。どうしたんだ、大丈夫か彼氏。よほどボイン好きが後ろめたかったのか。

自分のどこを好きかって、女は結構気になるようだ。「ねえ、私のどこが好き?」なんて面倒なことを女に聞かれた方も多かろう。そういう場合は、「一生懸命がんばってるトコ」とか「さりげなく気づくところ」とか、「中身」を褒めてあげると、大抵の女は納得すると思われる。特に「がんばってるのが好き」な女は多いので、その辺をついてあげよう。間違っても「セックスの相性」とかだと失格の場合が多いので、注意が必要である。

さて、この『悪魔とドルチェ』。読みながら、「ああ、少女漫画は夢があっていいなあ」としみじみしてしまった。なにしろ、女子高生マユリと付き合っている大悪魔ビュートは、あまーいお菓子が大好きなのである。そして、以下はビュートのセリフ。

デートの喫茶店で、
「映画も観たし、もう用なくね? 家帰ってお前ケーキでも焼けよ」

1週間ぶりに会ったマユリに、その理由を聞かれ、
「お前が中間試験とかでクッキー1枚焼かなかったからな」

久々にマユリの家に来た第一声が、
「今日のデザートは?」

そして怒ったマユリのセリフはこうだ。
「どうしてビュートはいつもそうなのよ! 私とお菓子と一体どっちに会いに来てるわけ?」

マユリの焼くお菓子は、とっても甘くて香ばしくて、とってもとっても美味しいらしい。ビュートはすっかりマユリのお菓子の虜で、その他のお菓子はもう食べられない。それで、会う度にマユリに菓子菓子とつぶやき、マユリを怒らせてるわけであるが、このやりとりが微笑ましいのは、ネタが少女な感じの「菓子」だからだ。

もしもビュートの要求に、少しでもエロの匂いがしたら、萌えどころか鳥肌ものだ。試しに、上記のセリフを、エロがらみに変えてみる。

「映画も観たし、もう用なくね? 家帰ってお前シャワーでも浴びろよ」
「お前が中間試験とかで全然ヤラしてくれなかったからな」
「今日の下着は?」
「どうしてビュートはいつもそうなのよ! 私とセックス、一体どっちが目当てなわけ?」

なんだか、ものすごくヘビーだ。求めているものの中身が違うだけで、こうも印象が異なる。ビュートが菓子菓子うるさく言うので、「私を大事にしていない」とマユリは怒っている。この手のいさかいって、男女によくありそうだが、それでもこれがファンタジーな少女漫画になっているのは、ビュートの求めているものがエロから遠いお菓子♪ であるためだ。これらのセリフに少しでも性欲の匂いがしたら、この話はファンタジーではなくリアルになってしまう。

いくらマユリをないがしろにしても、気が利かなくても、マユリが「心を込めて」作ったお菓子に惹かれているということで、バランスが取れているのだ。これがエロだと、ビュートの行動は女子的には許されない。もっとほかにケアが必要になるわけである。

つまり、ビュートが全然ダメ男でも許されるのは、エロ要求が皆無だから。エロまっしぐらのキャラにする場合は、主人公を不安にさせる要素を消し、他の部分で完璧に近くなければならない。『覇王愛人』とか『僕は妹に恋をする』の男子たちが、とても優秀であるのはそのためだ。

というわけで、男性諸君、女にエロ要求をするときは、盛りだくさんのフォローをしておくれ、という話。
<『悪魔とドルチェ』編 FIN>