少女漫画で大人気の無理チュー・不意チュー。これ、実践できる男子はどれだけいるだろう。成功率がわからなければ、トライする勇気も出まい。しかしこれを実際に成功させる秘訣はあるのだろうか。ではその例を、藤くんで見てみよう。藤くんは、杏のことが好きで好きで、もう5年も片思いしている。杏はどうだか知らないが、読者は「藤くんが杏を好き」なのは、充分すぎるくらいに知っているのだ。

この物語では、藤くんは勉強ができて、クールでアンニュイで、杏に一途だという、彼の魅力をさんざん読者に伝えてから、不意チューをさせるのである。読者はすでにこのシーンより前に、藤くんに好意を抱いている可能性が高い。つまり、杏は藤くんに恋愛感情は抱いていない(ことになってる)が、読者は恋愛感情に近いものを抱いており、それゆえ不意チューに萌えるのである。これは『きみはペット』のモモの無理チューと同じ構造。モモが愛らしく、スミレに好意を抱いていることはとうに読者は知っているから、「よし来たか!」と萌えるのである。

それからもうひとつ。藤くんが不意チューをかましたのは、杏から憂さ晴らしに呼び出されたときだった。夜に桜が満開で、杏がキラキラして苦しくて仕方がない藤くん。杏の髪に付いた桜の花びらを取ってあげようと手を伸ばし、ついでに口まで伸ばしちゃったというわけだ。

現実では、好きでもない相手からいきなり不意チューされたら、ハリネズミくらいの鳥肌が立ちそうだ。しかしそうならない場合もある。「チューの寸前まで、その兆しをまるで感じなかった場合」だ。大抵の少女漫画における不意チューは、男子がその瞬間に「思いあまって」行っているのだ。だから「不意」なんだけどさ。

多くの女子は、若いころから男に好奇の目で見られることが多く、これに嫌悪感を感じて否定したり、もしくはそれを利用したりと、様々な形で受け入れていく。こうした状況にあるため、男性からの「女に触りたい」「あわよくば」という雰囲気を敏感に感じ取ってしまうのである。

例えばものの受け渡しをするときに、女が持ってるところに手を出してきて指を触れさせたり、並んで歩いているときに、どんどん近寄ってくるので、避けて歩いているうちに道路を斜めに歩くハメになったりすると、ちょっと気分が悪い。気軽に女子にタッチできて嫌みがない男子というのは、かなりハイテクニックの持ち主である。やはり一緒にいて心地がいい男子というのは、肩や手が触れる距離を意識して、触れないようにするとか、少々誠実そうな男子であるのだ。

藤くんも、不意チューの直前、髪飾りなどという色っぽいものをプレゼントしているにもかかわらず「つけてあげるよ」などという下心満載の台詞は言わない。不意チューに許しを請うには、誠実そうなイメージは欠かせないのだ。「看護婦や女教師など、一見お堅そうな女子が、実はエッチなのがよい」というのと同じ法則である。

で、少女漫画から学ぶ、不意チュー成功の秘訣。まずは「自分は君が好きなんだ」ということと自分の魅力を、時間をかけて伝えること。そして事件当日は、不意チューをする寸前まで、その兆候を一切見せないこと。身体が触れるチャンスがあっても、あえて避けることで、女子は「この人は安全」と、警戒心をズルッと緩めるのである。そうなったらつまり、スポーツ女子ではない限り、反射的に拒絶される可能性はグッと低くなるというわけだ。行く前に引け! ま、言うのは簡単だな。

ていうか、男子が不意にやりたいのは、「チュー」じゃなさそうだっつうのが、一番の問題かしら。
<つづく>