私の知り合いで、この上なく女にモテモテの男がいる。彼は顔だけ見たら正直、男子校のクラスで40人中40番目だろうと思う。では何が彼をモテさせるのか。正直で余裕があるところだ。金がないときは「今日、金がないから奢って」と言い、立身出世して金持ちになれば、当たり前のようにご馳走してくれる。話をよく聞いてくれ、「俺もそうだよ~」と同調してくれるので心地が良い。

彼は甘ったれの末っ子で、スポーツ万能ではあるが顔がよくないことを恐らく知っており(ひどい言い様だが)、どうすれば自分の魅力が引き立つのかをしっかり知っているのだ。男でも女でも、モテたかったら、自分の魅力がどこにあるのか、そこを見極め引き出すことがスタートなのである。

そこで、非常に痛いのが『オトメン』の大和くんだ。彼は美少女顔で身長156cmのちびっ子である。まあ少女漫画でいう「ちんこなし」系の男子。結論から言うと、彼の正しいモテ道は、「男」を感じさせない風貌を活かして女に取り入ることだろう。警戒心を抱かせないので、テレビやファッションの話などして、女の輪の中に入っていけばよい。まあデメリットとしては、友達以上になりにくいことだけど、そこは一途に押せ。そもそも女に警戒心がないのだから、そこのハードルは低いはずである。

しかし大和はかわいそうなことに、自分の持ち合わせていないものばかりに憧れて、痛い失敗を繰り返す。この辺は胸が痛い男子も多かろう。まず大和が妄想するのは、身長180cmのクールな自分なのである。身長という、いかんともしがたい条件を無視して、なぜそういうものになろうとするのだ、大和よ。

大和はデートの予行練習(!)で"行きつけ"のクラブに行き、「(いつもここで)皿回してる」と言い、「見ててください、俺の皿さばき」「なんか今日は皿がいっぱいだからムリっぽいわ!」と言う。飛鳥ちゃんからは「お前、皿がなんだかわかってるのか?」と突っ込まれてるが、女子のつっこみはそんなスイートじゃないので、男子諸君は本当に気をつけたほうがいいぞ。

好きな相手には、自分のいいトコを見せたいと思う。それは誰でも同じだ。だけど嘘はついちゃいかん。だってそんなの、付き合ったらすぐにばれるじゃない。嘘をついて、自分じゃないものを好きにさせたとして、空しいのは自分じゃないか。というわけで「成長」がストーリーの基本である少女漫画の登場人物・大和は、途中でそれに気づき路線変更するわけだが、このオチもまた面白いので、気になる方は漫画をぜひ。

ところで、とある男性と夕飯を食いに行ったときのこと。さあ完食、そろそろ帰るか、というころになったら「トイレに行ったらどうですか」と言われた。想像するに「会計は、女性がトイレに行った隙に」とか、なんかで読んだか聞いたかしたのだろう。しかし愚直に対応するならば、一応、私も大人なんで、排泄事情にまで配慮いただかなくてもよい。

確かに、トイレから帰ってきたら会計が済んでいた、というのはスマートだ。「慣れてるな」という印象を与えることができる(それがいいことかどうかは知らないよ)。だけど、慣れてないのならムリにリードしようとせず、「ごめんなさい、ちょっと緊張してます」とか「失敗したら笑って突っ込んでね!」とか、素直に先手を打てばいいのだ。大和みたいに、漕げないボートを「漕げます」みたいにつっぱらかれるほうが、一緒にいるほうは面倒くさくてたまらん。へタレを褒めるのなんか面倒くさいし、ミスには顔を背けなければいけないし、気を遣うこと山の如しだ。2度目のデートは積極的に行かない方向になる。

身の程を知る、というのは、とても重要だ。変なプライドをかざして突っ張ってるヤツが、顔より身長より経済力より、何より一番モテないのである。でもこの漫画は、少年・少女問わず「漫画の王道」を茶化してるとこが面白く、妄想激しい大和も、バカだけどチャーミング。うまいね。
<『オトメン』編 FIN>