学生のころ、惚れた腫れたで男を泣かしたことがあり、そのときに「5年でも10年でも諦めないからな!」と言われたことがある。そりゃ大変だと思っていたが、3カ月後にはそいつは、ほかの女とイチャイチャ付き合っていたので、人の恋愛なんて、そんなものかと思ったものである。

それにどれほど失望したか、漫画を読んで育っちゃった女どもには深く頷けるところかも。何しろ、少女漫画に登場する男たちは、とにかく一途だからだ。しかし男性諸君よ、そんなヲトメたちを嘲笑してはいけない。少年漫画に登場する女どもも、かなり男に都合がよく、数パターンの女性像しか登場しないのだから。

大作家といわれるような人気漫画家の作品を読んでも、少年漫画には女の目から「活き活きとしていて魅力があるな」というキャラがいないのだ。よく読んでみれば、女性キャラは男性キャラの添え物的立ち位置。少年漫画が好きだという女子は多いと思うが、その理由に「この女性キャラがステキだから」という人は恐らく皆無に近いだろう。

が、男にモテたかったら、少年漫画を読んでそのとおりにすればよい。同じ台詞を言うというような簡単なことではなく、全体的な傾向と願望を読み解いて実践すれば、高確率でヒットしそうだ。男が描く、男のための作品には、男の夢や願望が身勝手に詰まっているのだから。

というわけで、男性にぜひ参考にしていただきたい、ここにヲトメの夢が身勝手にギッシリ詰まったステキな物語がある。『ヨコハマ物語』だ。大和和紀の漫画を取り上げるのはこれで3作目になっちゃうが、今年は横浜開港150周年記念だそうなので、記念ってことでぜひ。なにしろこの物語は、ヨコハマを開港した男と、その女たちの物語なのだ。

小さいころにこの漫画を読んだ私は、今でも横浜港にはなにやら特別な思い入れがある。横浜開港資料館に行ったときなど、もうひとりで息が上がっちゃって。開港当時の地図を見ては漫画のシーンが浮かび、「あ、あのシーンはここで起こったのか」などとひとり大興奮。単なる地図や模型を見てハアハア言えるのだから、漫画が与える夢の力ってのはでかいものだな。

さて、この『ヨコハマ物語』、主人公は対照的な二人だ。1人は大富豪の娘、万里子。美人で覇気があって頭がよく、何もかもに恵まれたお嬢さんだ。もう1人は、両親が死んで、その万里子の家に預けられることになった、お卯野。田舎育ちで野性的な貧乏人だ。この2人が、固い友情を育てながら、それぞれの道を歩みつつ、大人になっていく。登場人物が複数登場する場合、対照的な組み合わせにするのは物語構成の基本である。

で、その2人に絡んでくる男たち。1人は隣に住む森太郎さま。医者を目指すインテリ草食男子である。もう1人は竜助。名前のとおりの肉食系だ。やはりこちらも対照的な2人。よく、カップルが友達カップルと一緒に遊ぶとき、男同士が知り合いの場合は、その連れの女たちは仲良くなっちゃったりするが、女同士が知り合いで、連れの男を連れてきた場合は、あまり親しくならないという傾向があるようだ。協調を望む女と、自己顕示を望む男の性差の表れのようで面白い。森太郎と竜助も、まー仲が悪いこと悪いこと。

詳細な中身については次週に回すとして、この作品は、非常に上質であると思う。丁寧な時代考証の上に物語が成り立っており、妄想ゆえの無茶な展開がなく、強いメッセージと意志が感じられる。そして男性諸君、女たちは万里子やお卯野といったキャラを魅力的だと感じ、強く憧れ、また共感するのだ。少年漫画に登場する女性像とどこが違うのか、少し見比べてみるのも面白いかも。
<つづく>