ヲトメの欲望とは何か? 自分に恋焦がれる男にさらわれちゃったり、すごいすごいとちやほやされちゃうことだ。その願望がいかに強いか、たったそれだけのテーマで30年以上も連載が続いている少女漫画がある。『王家の紋章』がそれだ。

ストーリーの概要は、考古学大好きなアメリカ人金髪碧眼娘のキャロルが、古代エジプト女王アイシスの呪いにかかって古代エジプトへタイムスリップするも、そのうちにファラオであるメンフィスにひどく好かれ、やがては相思相愛になるというもの。そこから話が始まって、キャロルがヒッタイトの王子イズミルやらなんやら、近隣諸国の王やら王子やらに好かれて、さらわれちゃー戻ってきて、またさらわれちゃー戻ってくるというのを繰り返している。先日52巻が発売されたが、相変わらずさらわれていたようだ。

男子が読んだら、おそらく意味不明のファンタジー漫画に読めるのではないでしょうか。けれどもそういうものにこそ、ヲトメの欲望が詰まっているものなんである。女がAVを見て、「なんじゃこりゃ」と思うのと似た感覚でしょうか。

まず、キャロルは現代では、単なるドジで間抜けな古代史オタクである(すごい財閥の令嬢だが)。ジミーという恋人がいるけれど、彼はパイナップル柄のTシャツとか、いつも変な格好をしているので、ジミーもオタクなのに違いない。

しかしキャロルは、いったん古代へタイムスリップすると、もーモテモテのギュウギュウなんである。これぞ女の求めるハーレム状態。キャロルが古代にこだわって「帰らない」と言い出すのも頷けますわ。

まずはメンフィス。気性の荒い美少年王で、「キャロルー!」「馬ひけー!」と、切れ系芸人のようにやかましい。そして、「私の腕の中でたっぷりお仕置きしてやるぞ」などと、どこかのAVのセリフようなことを言う。メンフィスは奴隷を平気で殺すような残酷な奴である。なぜなら彼はファラオだから。ファラオ・イズ・ゴッド、なんである。しかしキャロルを囲って羽交い締めにしたりするくせに、襲いかかってヤっちゃったりはしないという、貞操観念だけは非常に高い好青年なのである(その上、結婚式(←!)あげるまで我慢してましたよ、古代のファラオは偉いですなあ)。

しかし、これがまた女ウケするところ。ヲトメ的には、激しく狂おしい思い→熱い抱擁とチューどまり。基本です。それ以上いっちゃうと、なんか生々しいというか、あ? ヤりたいだけだったのね、という、どこかしらけた気持ちになるもんなのだ。

しかしこの漫画の魅力は、それだけではないのであるよ。
<つづく>