これだけ女性の社会進出が進んだとは言われていても、まだまだ金持ちの男性を捕まえたいという女性はうじゃうじゃいる。男が、頭の弱い女を捕まえて偉そうなことをいっぱい言うことで、努力もせずに偉い人間になったと勘違いしたいように、女もまた楽をして金持ちになりたいんである。

金も夢もない現実から一気に抜け出して、あらゆる女性の夢を手に入れたのが、ナナ。しかも、超金持ちで、超有名人で、超イケメンとの結婚。どれだけ多くの女性に希望を与えたことか。

ところで、女性にとって愛のないセックスはない。いくら簡単にやっちゃっても、ナンパな感じだとしても、女性は「愛があるからする」もしくは「そこから愛が生まれる」と思いたいのである。その証拠に、うっかり気軽に女とやったら、以来しつこくされて困ったという経験のある男の方も少なからずいるだろう。ラブシーン満載のエロレディースコミックですら、やってから男が女に夢中になる話が、どれだけ多いか。

『NANA』でも、クールで頭脳明晰、女にモテモテのイケメン・タクミは、ちょろっとやっただけのはずの女、ナナと結婚を決意する。正直、小うるさくて面倒で、しかも識別不明の妊娠までしている女と、なぜ結婚したいのかがまるで分からない。しかしそんなこたぁどうでもいいのだ。「そうあってほしい」から「そうなる」のが、少女漫画。これで女性に夢を与えるわけだから。

人は誰でも、誰かに必要とされたいと願っている。そしてあわよくば、いろんな人間に好かれてチヤホヤされたい。もっと言えば、人から必要とされるにはそれなりの努力をしなければいけないが、できれば楽して必要とされてチヤホヤされたい。

ここでもナナは、持ち前のマヌケさを武器にして(つまり何の努力もなく)、「かわいいなあ」などと言われ、ブラストのメンバーにチヤホヤされる。これも女性が夢見る最高の環境だ。

そしてもうひとつ。『ケンカをやめて』という歌があったが、女は複数の男に取り合われたいという願望がある。女は「彼を悩ませた私は悪い女♪」などと、泣いてほくそ笑みたいのである。タクミとノブに挟まれて、まんまとナナは涙を流す。

金も男を見る目もない平凡な女が、次々と妄想を現実にしていく様に、女性たちはもだえ、夢を見たのである。これにNANAの魅力が加わり、爆発的なブームを呼んだ。NANAやトラネスの分析は、また別の機会を作って書いてみたいと思うが、つくづく女性にとって魅力の多いストーリーである。
<『NANA』編 FIN>