小樽から留萌へ夜の旅

今回の一番の旅の目的は、「北斗星」に乗ることだった。とりあえず目的は達成したので途中下車し、終点の札幌には行かずに長万部から小樽に来た。さて、どうする。小樽からフェリーで新潟か舞鶴に行こうかと思ったが、日程がうまく合わない。日本最北の駅、稚内にいこうかとも考えたが、単純に列車で行くのも芸がない。あれこれ悩んだが、結局、留萌に行くことにした。名前の響きがいい。時間があれば、増毛に行ってもいいし、と考えた。

しかしだ。その日のうちに留萌に着くためには、小樽駅18:08の「いしかりライナー」に乗らなければならない。札幌から特急に乗り、深川で乗り換え、留萌に着くのは21:31。電車賃は5,830円。高い。札幌から高速バスに乗れば、電車賃630円+高速バス代2,300円で2,980円。しかしだ、留萌に到着するのは22:25と遅くていやだ。やっぱり鉄道で行こうと考えて、寿司屋を出た。

念のため、一本前の小樽駅発18:04のエアポート184号新千歳空港行に乗車する。窓から眺めると、駅を発車してからすぐに、前回紹介した廃線と旧手宮線の線路が並んで走っているのに気付く。なるほど、旧手宮線は南小樽から出ていたのか。海岸沿いを列車は進み、張碓海岸、恵比寿岩のすぐ脇を通過する。約20年ぶりに見る光景である。

まわりをかもめが乱舞する恵比寿岩。小樽の名所旧跡の1つである

札幌駅には18:36に到着。ここで19:00発の特急スーパーカムイ45号旭川行きに乗り換える。自由席にしたが、座れたので一安心。乗車率は6割程度か。窓側の席に移り、ロッドアンテナを伸ばしてラジオのスイッチを入れ、コミュニティ放送を聴く。もちろんイヤホンを耳にさしながら。

滝川あたりで、「エフエムなかそらち-G'Sky」が聞こえてくる。まったりした女子学生の会話が続く。町のラーメン屋はどこがいいのかというテーマを、今風の語尾を微妙に上げながら、2人気だるくで話している。その気だるさが旅人には心地よく感じるのはなぜだろうか。途中下車してそのラーメン屋に入りたくなった。

20:02に深川で特急を降り、20:08発の留萌行き乗り換える。列車の中は男子高校生の一群が目立つ。部活の帰りだろうか……。列車は順調に走り、留萌駅には定刻通り21:31に着いた。

寂しさ萌えか? 夜の留萌

改札口を出ると、寂しさが押し寄せてきた。今夜の宿であるビジネスホテルは駅から歩いて10分ぐらい。歩いていくか、いくまいかと悩んでいると、タクシーが1台停まっているのに気がついた。だが、逡巡している間に、タクシーは発車してしまった。う~ん、困った。他にタクシーが来る様子はない。

暗い夜道をとぼとぼと歩きだし、最初の交差点までいったところでどちらにいけばいいのか、わからなくなった。たまたま出くわしたおじさんに道を聞いてホテルにたどり着いたのは駅を降りてからおおよそ30分後であった。

しかし、寂しい。ホテルの近くにあいてる食べ物屋はないようだ。コンビニはあるか、とフロントで聞いたところ、7、8分歩けばあるという。下着姿の40代ぐらいのおじさんが洗濯機を回している横を通って、ドアを開けるとそこには数軒のスナック。青い看板の光、漏れ聞こえるカラオケの歌。目の前のドアノブを回すには、まだまだ修行が足りない。

夜中前のコンビニに食べものは少なく、350mlの缶ビールと1つだけ残っていたシャケのおにぎり、ポテトチップの袋を抱え、ホテルの部屋に戻る。まずは歯を磨こうと洗面所へいこうとしたら、いきなりつまづいた。洗面所とユニットバスの入口は10cmほど高くなっているのだ。悲しくなって、ふとんをかぶって寝ることにした。

「甘えびを今からとってくるから」と刺身定食を食べる

翌朝は晴れ。でも、することがない。とりあえず終着駅の増毛駅へでもいこうかと駅に向かうと、昼まで列車はないという。仕方がないので、バスに乗って増毛へ。海岸沿いの道をバスは走り、木造の小学校のそばを通って増毛駅へ。朝の9時過ぎ。お腹がすいているのに気がついて、駅近くの観光案内所で食べ物屋があるかどうかを聞いてみた。が、お昼前まで待たないと店はあかないという。

日本最北の酒蔵「国稀酒造」

ところが、わずか30mほどいった場所に定食屋があり、地元の人が入っていくではないか。聞いてみると、メニューは少ないけど、作ってくれるという。そこで、刺身定食を頼む。地獄で仏に会ったような気持ちだ。おまけに、「えび、とってくるからな」とあとから持ってこられた大量の甘えびのおいしいこと。殻をむきむき、頬張る私。これで生き返えったので、近くにある造り酒屋に行く。実は、日本最北の酒蔵「国稀酒造があるのだ。酒を試飲し、いい気分になってきた。でも、一番感動したのは甘酒。こんな美味しい甘酒は飲んだことがない。

国稀酒造近くにはにしん漁の船が保存されている倉庫が

「そば処 増毛駅」のにしんそば。駅そばというか、駅そばの横に改札口があるという感じだ

増毛駅に戻ると、イベント列車が来るとのこと。このイベント列車に乗って戻ろうと考えた。終着駅の車止めをぼんやり見る。すぐ先は駐車場。そろそろ人生の終着駅だな、なんて気が滅入る。滅入っても仕方がないので、「そば処 増毛駅」でにしんそばを注文する。金七百円なり。「地元のキタワセ」を使っていると貼り紙に書かれている。「キタワセってなんですか」と店員に聞いたところ、要領を得ない。地元のそばですということではなく、どういうソバの種類かを聞きたかったのだが……。

終着駅、増毛。線路の先はすぐ駐車場

後日帰ってからインターネットで調べると、キタワセソバ、ソバ農林1号という名前らしい。誕生(農林登録の年)は平成元年。まだまだニューフェイス。この20年間に広まり、北海道の作付面積の90%がこのソバとのこと。日本のソバの生産地のトップは、北海道だから、国内ナンバーワンのソバということになる。

そして、増毛駅から留萌に戻ろうとイベント列車「増毛ノロッコ号に乗る。列車の天井からはつくりもののカモメがぶら下がっている。隣の客車はバーベキューカー。帰りだからだろうか、バーベキューカーは営業していなかった。

10周年のヘッドマークマークをつけた「増毛ノロッコ号」。ちなみに今年は留萌本線開業100周年だそう

写真左: イベント列車の客車内。天井からはかもめがぶらさがる。写真上: 電気式ホットプレートを備えたバーベキューカー

増毛・留萌間では、車掌車を駅待合所にした駅がいくつかある。写真はその1つ礼受駅

留萌から北へ「萌えっ子フリーきっぷ 」の旅がはじまった

留萌駅の待合室にはくま

留萌駅に戻り、さてどこに行こうかと考える。列車で深川に戻るか、バスで札幌に行くか、それともバスで豊富もしくは羽幌に行って稚内に行くか。確か豊富行きのバスが1時台にある。それにしようと、沿岸バスの停留所へ行く。

気になっていたのが、近くの「お勝手屋・萌」に貼られて「萌えっ子フリーきっぷ 2ndシーズン」の案内。正式名称は『「萌えっ子フリーきっぷ」-増毛☆豊富 日本海ふさふさ街道 セカンドシーズン-』というそうだ。萌えキャラが描かれたフリーキップ。留萌でなぜ……、あ、萌えか。

「お勝手屋・萌」のおばちゃんに、「萌えっ子フリーきっぷ 2ndシーズン1日券1枚」と注文する。「この絵、おもしろいですね。はやってるんですか」とよいしょにならないよいしょをするが、おばちゃん「なんか、秋葉原が…なんとかで……」っとわかっているのかわかっていないのか、全然のってこない。興味なさげである。ま、おばちゃんと萌えキャラは対極にあるからなと思っていたら、まずはキャラを選べという。めがねっこと紺色制服バスガイドのどちらかを選べという。めがねっこは「清川ありあ」、バスガイドは「千望みさき」というらしい。私は「千望みさき」を選んで出ようとしたら、そのおばちゃん、ちょっと待てという。何だろうと待っていると、奥のほうからごそごそと萌えせんべいを持ち出してきた。

「萌えっ子フリーきっぷ 2ndシーズン 千望みさきバージョン」

「萌えっ子フリーきっぷ 2ndシーズン 千望みさきバージョン」と萌えせんべいをにぎりしめてバス停で待っていると、かんかん帽子をかぶったJJ風娘がすぐそばを通りすぎたのであった。