バイクに乗っているとよく質問される。「足着くの? 倒れたら起こせるの?」と。確かに私は152センチと身長が高い方ではない(むしろ低い)。立ちゴケやバイクの取り回しなど、体が小さと苦労が多いことも事実。そんな私のちびっ子ライダー生活を振り返ってみたいと思う。

私がまたがると、バイクが巨大に見える…

1センチの段差が運命の分かれ道

冒頭に書いた「足着くの? 倒れたら起こせるの?」という質問の答えは、「足が着かないバイクは多いし、自分でバイクを起こせないときもある」といったところ。足つき性と取り回し性を重視するのだけど、「乗れる!」と自信が持てるバイクはかなり少ない。BMWのような外国車はつま先すが着かず、足がブラブラしてしまう。ベッタリ地面に足が着くバイクはもうほとんどあきらめていて(50ccでもカカトが浮く)、足の指の付け根が着くか着かないかが、私が乗れるバイクの分水嶺になっている。

さらに悪いことは、地面は平な場所ばかりではないということだ。私が初めて立ちゴケしたとき、足を着いた場所が若干凹んでいた。そのため足は空を切り、足が地面に届いたときにはすでに時遅く、かなり傾いた車体を支えられず倒れてしまった。その後、何度も立ちゴケをしているが、足の着く場所が轍(わだち)の窪んだところだったり、地面が斜めになっている低い側だったよいうパターンが多かった。たった1~2センチの高さでもちびっ子ライダーの運命は変わってしまうのだ。

立ちゴケは未装路や轍、傾斜など、路面状況が悪い場所で起きやすい。そういった場所で車体を引き起すのは、普通の舗装路よりはるかに困難だ。バイクの引き起こしが大変だという話をすると、時々、「教習所で起こす練習をしなかったの?」と言う人がいる。教習所では砂利道での引き起こしなんて教えてくれない。キレイに舗装された道なら、私だって力を振り絞れは何とか起こせなくもない。これでも教習所を卒業したわけだし。結局、かなり情けない話だけど、人に助けてもらうこともある。

私は身長に比例して手も小さい。そのためクラッチ・ブレーキレバーの操作は「握る」か「放す」しかできず、半クラッチのような微妙な加減の操作が苦手だ。フロントブレーキをかけながらのアクセル操作はできない。だから、体が小さくても上手いテクニックを持っている人を見ると本当に尊敬してしまう。大型免許を取るとき、クラッチが重くて1時間の教習で左手の握力がなくなってしまい、何度も休みながら教習を受けていた。もう少し体が大きければ……と何度思ったことか。

それに、体が小さいとライディングブーツやジャケットも種類が少なく、欲しいデザインのものは合うサイズがなかったりする。最近は女の子ライダーが増えたので、大きな用品店はレディースコーナーを用意していたりする。Sサイズのウエアや私にも合うブーツが増えているようで、これはありがたいと思う。

それでもブーツに問題が発生する。やっとのことで気に入ったブーツを見つけても、常に足がつま先立ち状態なので、普通ならヒールの部分から減っていくのに、私の場合はつま先から減っていくのだ。ヒールは厚みがあるので多少減っても問題ないが、つま先はすり減ると簡単に穴が開いてしまう。穴が開かないまでも、つま先が削れてシルエットが崩れると見た目も格好悪い。苦労して手に入れたブーツが乗れば乗るほど格好悪くなってくる。穴が開けば、浸水してくるので使い物にならない。シフトしても靴が傷つかないカバーが売られているが、つま先専用カバーもあればいいのに……と思っている。

立ちゴケの写真がなかったので、モトクロスの転倒シーンを再録

CBR600RRの足つき。ブーツの中は親指の先のみで支えた状態

足のどのあたりまでが着地すれば安心か?

身長と同じくらい手もちっこい。私の手(左)と同僚の男性

つま先の内側がかなり削れてしまったブーツ

ここまで削れると水が浸水してくる

バイクを選ぶ基準はシート高よりシート幅

体が小さい人にとって乗りやすいバイクとはどんなバイクだろうか? 以前乗っていたゼファー750は足つきも良く、他の大型バイクに比べれば軽いということで選んだが、私にとってはかなり重かった。以前、ハーレーのFXDLに乗る機会があった。足つき性はとても良いけど車重はかなり重い。乗ることはできてもバランスを崩したときに支えるのは大変そうだ。逆に現在乗っているジェベル200は、オフロードの200ccバイクなのでメチャクチャ軽い。どんな悪路でもひとりで引き起こせるようになった。体が小さく力のない人はシート高だけでなく、車重で扱いやすさがだいぶ変わってくる。私がゼファー750を押していると、「ゼファーってそんなに重いバイクだっけ?」とよく言われたものだ。

足付きを考えるとシート高に注目しがちだが、実際はおなじシート高でもシート幅で足つきはずいぶん変わってくる。ゼファー750のシート高は780mm、ジェベル200は810mmと、ジェベル200のほうが高い。しかしジェベル200のシートはずいぶん細いので、足つき性はそれほど変わらない。以前、友人のV-MAXを跨らせてもらった。V-MAXのシート高は765mmとかなり低いが幅が広い。そのため足のつま先がギリギリ着く程度だった。加えてとても重いので垂直に起こすこともできなかった。シート高660mmのドラッグスター400に乗っている女の子(身長156cm程度)は、「足つき良いとはいえないし、足をかなり広げた状態だから、長時間乗っていると股関節が疲れる」と話していた。

私の乗っているジェベルは、足つき性を良くするためにサスペンションを緩めて(※編集部注:「プリロードを下げて」が正しい)、沈み込みを大きめにしている。もちろんショップでやってもらった。シートのアンコ抜きをする人も多いが、サスペンションのセッティングを変えるだけで、かなり足つきは向上するので、足つきに不安な人はまず試して欲しいと思う。あんこ抜きをする場合は、シートを薄くするより角を落として細くした方がクッション性を維持しつつ足つき性は向上するらしい。

傾いた路面で車体を起す場合、スタンドを立てている側が下がっていると、垂直に起こすのも難しい。足を踏ん張って伸ばしても垂直まで起きなかったりする。そんなとき私はスタンド側に体重を乗せ、上半身を勢いよく右側に振った勢いで車体を垂直に起こすという荒技(?)を使ったりする。試すなら、足を付く場所をよく確認してからにしよう。

CBR600RRに跨がってみる。腰を大幅にずらしてやっとつま先がつく

愛車ジェベル200の足つき。足はつきは親指の付け根辺りだが、軽いのでかなり安定している

W650の足つき。車重や足つき性は以前乗っていたゼファー750に似ていると思った

以前乗っていたゼファー750。立ちゴケをして何度もブレーキレバーやウインカーを折った

W650に乗った。トルクがあるので走り出しが楽チン。大型バイクにまた乗りたいと思ってしまった

何度転んでもバイクは乗り続けるぞ!

やはり立ちゴケの多い知り合いのちびっ子ライダー(150cm)は、助けてもらった人に「起こせないなら乗るな」と注意されてしまったとこぼしていた。たしかにその人の言うとおり、自分のバイクを起こせることは重要だと思う。だけど道路状況の具合とか、頑張ってもひとりでは起こせないときがある。頑張っても頑張ってもダメなら、誰かに助けてもらうという手段もありなのではないか?

私がバイクを乗り始めてから、たくさんの親切な人に助けてもらった。「道に迷ったとき」から始まり、「バイクを倒して起こせなかったとき」、「倒してシフトペダルが曲がったとき」、「倒してウインカーを折ったたとき」など、数えたらきりがない。助けてくれた人がいるから、バイクを乗り続けてこられたんだと思う。

ただ、人に頼ることを前提に乗りたくはなかったので、最低限は自分で対処できるジェベル200に乗り換えた。やはり軽いバイクは扱いやすい。初めて乗ったときはパワーが物足りなかったけど、扱いやすさに感動した。ゼファー750は何度も立ちゴケをしてロングツーリングでは必ずレバーを折って帰ってきた。しかし、ジェベルではまだ一度も転んだことがない。一般的にツーリングでは大型バイクの方が疲れないといわれているが、私は扱いやすいジェベルのほうが気を張らず走るので疲労は少ない。最初から遅いバイクとわかっているので、ゆっくりマイペースで走れる。

別に小さい人は小さいバイクに乗ればいいということはなくて、ゼファーは高速走行が楽なので、1日で遠くまで行ける。短期間でいろいろな土地を見ることができ良かったと思っている。要は自分の走り方と体格にあったバイクに乗ることが大切だと思う。

ツーリング先で「ちっこいのによく頑張っているな」と褒められたり、料金所のおじさんに「気をつけて行ってくるんだよ」と声をかけらえたりする。いろいろな人がバイクを乗っているのに、体が小さいだけでスゴイと言ってもらえるとちょっと得した気分になる。そんな出来事があるから、何度転んでも頑張れたりする。だから、身長や体力などでバイクを諦めるという話を聞くと、もったいと思ってしまう。ハーレーに乗るために小型特殊免許から大型免許を取ったという50代の女性も私は知っている。体が小さいと不利なことが多いが、結局「バイクに乗りたい」という気持ちが一番大切なのだと思う。体が小さいという不利な条件で困難だからこそ、免許の取得やロングツーリングから帰ってくると達成感も大きい。苦労があるから楽しいのだ。

レポート:加藤真貴子(WINDY Co.)