相場はトレンド相場とレンジ相場があります。これらの違いは、一方向へのフロー(資金移動)が相場に存在するかどうかにかかわってきます。

レンジ相場については、一方向のフローがないために相場が行ったり来たりをします。一方、トレンド相場はもう少し複雑で、前向きなフローと後向きのフローがあります。

前向きのフローとは、まさにより有利な条件での資金運用をするために資金が移動するものです。例えば、先日、ECBが量的緩和の縮小を示唆しました。一方、「日銀は当面利上げの可能性が低い」と、米系ファンドあたりが、それを見越して、積極的に円売りユーロ買いをしているなど、まさに前向きのフローだと言えます。

一方、後向きのフローとは、ある国・地域の通貨に資金を置いていたところ、その国・地域に何らかの問題が生じたため、資金を引き揚げ、他に移そうとするもので、ひとことで申し上げれば、まさに後向きの逃避行動です。例えば、この4月からのアメリカと北朝鮮との緊張状態が高まっており、先日、北朝鮮がICBMの発射実験に成功したことで、更に深まりました。これは、ドルで資金を預けている投資家にとっては、由々しき問題です。

前向きのフローと後ろ向きのフロー(画像はイメージ)

少し余談になりますが、ドルの外貨預金をアメリカにある銀行ではなく、日本にある銀行に預金しているので大丈夫と思われるかもしれません。

しかし、日本にある銀行は預かったドルを日本に置いておいても運用できないため、米国にある銀行に預金口座を作りそこにドルを預けていますので、日本にある銀行に預けてあるから大丈夫というわけではありませんので、ご注意ください。

後ろ向きのフローは非常に長くなることも

さて、話を元に戻します。前向きのフローは計画的な運用になりやすく、秩序だっています。ですので相場に与える影響も限られます。しかし、後向きのフローは突然事件が発生し、油断をしていることが多いためパニックになる場合が多いと言えます。

いずれにしても後向きの方が発生している問題に対して不利で、早く逃避したいと思っています。言い換えれば、"我先に"マーケットから脱出したがっていますので、前向きのフローより流れは速くて激しくなります。

このように、前向きのフローと後向きのフローとでは、フローの速さも違えば対応する側の真剣さも違ってきます。また、フローは期間もいろいろで非常に長いこともあります。

2001年9月11日に米同時多発テロが発生しました。その原因は、同年1月に大統領に就任したジョージ・ブッシュ氏が、新任の大統領にありがちなことですが、すぐに結果を出そうとしてイスラム圏に圧力を加えたからです。これに対して、反発したのが、オサマ・ビンラディン率いるテロ組織アルカイダでした。 彼らは、アメリカの旅客機をハイジャックして、ニューヨークのワールド・トレード・センターや、ワシントンD.C.のペンタゴン (国防総省)に突入あるいは突入しようとしました。これによりブッシュ政権はヒステリックとなったため、公的、準公的な投資家は十分検討の上、翌年2月から資金をドルからユーロに移しました。

特に中東、ロシア、中国のドルからユーロへの資金移動が大きく、この流れは2008年まで6年間続きました。この御三家はいつまでも買い続けるため、「eternal buyer(永遠の買い手)」と呼ばれたものでした。

なお、ジョージ・ブッシュ大統領の任期は2001年1月~2009年1月でした。確かに2008年9月にリーマンショックがありユーロ/ドルは反落しましたが、任期のほとんどがドル安地合いだったわけで、同大統領に対してマーケットはどう認識していたかがわかる気がします。

そして今、もしかしたら、トランプ大統領も北朝鮮との問題を抱えているだけに、他の国が「アメリカが危ない」となれば長期にドルからユーロへの資金移動が強まる可能性があります。

※画像は本文とは関係ありません。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら