個人のFX取引をしていると、「自分にはプロと言われている銀行のディーラーなどが得られるような精度の高い機密情報を得ることはできない」とお考えになることは少なくないと思います。

確かに昔は銀行ディーラーは結構重要な情報を手にすることができました。しかし最近では、コンプライアンス(法令順守)や規制の強化により、銀行ディーラーと言えども機密情報をほとんど手にすることはできなくなっています。

手に入りにくくなった売買情報

その発端は2008年9月のリーマンショックです。これにより銀行の儲け過ぎに対する社会的な批判は高まり、特にロンドンでは銀行ディーラーのボーナスすら国会で決めるほどになりました。

そうした銀行批判の矛先が銀行の顧客情報の取り扱いまで及ぶのにそれ程の時間はかからず、現在ではさらに厳しくなっているもようです。そして10年近く前の顧客情報の漏えいが、今になって漏えい者の逮捕につながるといった状況になってきています。

リーマンショック後、銀行の儲け過ぎに対する社会的批判が高まった
(画像はイメージ)

これが意味することは、銀行からの情報漏えいはもはやかなり難しくなっているということです。ということは、個人と銀行の収拾する情報にそれ程の違いがなくなってきているということです。

しかし現行がそんな状況となり、銀行からの情報漏えいがかなり難しくなっているにも関わらず、個人向け情報には依然としてオーダー(注文)状況や誰が売った買ったといった売買状況が公表されており、いったいどういう入手経路で情報を得ているのか、非常に懐疑的になります。

まじめな話、現在銀行は逮捕者が出るまでになっています。銀行はレピュテーション・リスク(銀行に対する評判リスク)を嫌いますので、本当に情報が流れることはなくなったものと思われます。

それが個人向け情報ではまことしやかに流れていることには、マユツバにならざるを得ないと見ています。あえて申し上げたいのは、「個人向け情報は玉石混交ではなく石ばかりの可能性がある」ということです。

むしろ顧客情報がない方が良い

実は個人的には「顧客情報がない方がむしろ良い」と思っています。ヘタにオーダー状況などわかってしまうと、相場観を乱すことになりかねません。オーダーを意識し過ぎて相場観が二の次になり、収益チャンスを逃すならまだ良いですが、損失を出すことになってしまっては悔いが残るばかりです。

昔いた銀行では、リスクテイカー(ポジションを張る人)が十数人いたのですが、それこそ顧客情報などに全く頓着がありませんでした。その日も思い思いにチャートなど分析したら、誰もが相場は下がるという見方になりました。

一般的には皆が同じ方向を見ると失敗すると言われますが、マーケットへのエントリーが早かったせいからか、皆結構売って、そして昼前ぐらいには買い戻して利益を確定しました。

夕方になって外部から入ってきた情報によりますと、何かドル売りにつながる情報があって世間は大騒ぎだったそうです。そうしたことには馬耳東風のチームでしたが、シニアのディーラーから「我々も、たまには世間を知らないとな」という心にもない一言に、爆笑の渦となりました。

値動き分析の活用

情報入手より、マーケットプライスの動きから今後の相場の行方を見る分析法である値動き分析で相場の流れの変化からマーケットの大勢のポジションの偏りを知ったり、あるいは相場の方向性はどっちなのかを読めるようになったりすることの方が、どれだけ価値があるかわかりません。

その上、この手法の長所はリアルタイムで世界規模のポジション状況がわかる点です。それが可能になるのも、業者ごとのスプレッドはあるにしても、それを除いた通常マーケットのプライスは基本的に世界共通だからです。

※画像は本文とは関係ありません。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら